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ビッグデータの医薬品政策への応用は、期待や見込みでなく、事実と信頼のおけるエビデンス、透明性に基づくものでなければならない−プレスクリール

2019-08-29

(キーワード:ビッグデータ、不均一、低品質管理、透明性、利益相反)

 HMA(Heads of Medicine Agencies; 欧州経済地域内にあるEU加盟国以外の医薬品庁の長で構成するネットワーク)とEMA((欧州医薬品庁)は、ビッグデータの医薬品評価への利用にあたっての課題を探るためのタスクフォースを設立し検討を進めてきた。2月に「HMA‐EMAビッグデータ共同タスクフォースサマリーレポート」を発表し、パブリックコメント募集した。それへの回答としてプレスクリールは医薬品の認可と監視に関する規制は、単なる期待や見込みでなく、事実と信頼のおける証拠、透明性によるべきだとの懸念を表明したと英文ウェブサイト2019年4月(※1)は報じている。
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 ある種のビッグデータは、医薬品の市販後の安全性・有効性を監視し有用性を再評価するのに役立つのは確かだろう。そこでビッグデータをもっと活用するため、その方法について盛んに検討されているが、過剰な宣伝に惑わされないよう、ビッグデータの持つ弱点と限界に対処する必要がある。弱点と限界とは、データは膨大だが不均一で断片的、データの質管理の低さ、コスト、持続可能性といった問題である。活用のための研究は、どの問題を解決しようとしているのかを明確にして進め、もし有用だということがあれば、どのビッグデータが医薬品規制や承認プロセスの改善に役立つのかを考慮して優先順位を決めるべきである。ビッグデータの出所やデータの質、規制に用いる新しいアプローチとしての妥当性、有用性を徹底的に検討することが最も重要である。バイアスの処理方法と透明性確保は特に取り組むべき課題である。臨床試験と同様に、公的にアクセス可能で一元化された欧州レジストリに登録すること、結果の再現性と検証された統計分析、データ収集から分析までの全過程の透明性についても慎重に対処する必要がある。そして利益相反の透明性確保である。

 推奨は、利益相反のない独立した厳密な評価によって強固な証拠が得られた場合に、それに基づいて行うべきである。
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 ビッグデータ共同タスクフォースサマリーレポートでは、ビッグデータを「複雑、多次元、非構造的かつ異種で非常に大規模なデータセット」と定義し、コンピューターを用いた特殊な計算により迅速に分析されたパターンや傾向、関連などが明らかになる可能性のあるデータセットを指すとしている。たとえば何百万もの患者、ゲノミクス、ソーシャルメディア、臨床試験、自発的な副作用報告の電子データといったものだ。このような膨大な量のデータは、医薬品の利点とリスクが医薬品のライフサイクル全体にわたる評価方法に大きく貢献する可能性があるとしている。

 しかし、わが国でも多くの学会が各種の疾患登録をさかんに進めているが、プレスクリールが意見表明の中で指摘しているようにビッグデータの品質管理は大きな課題であろう。特に、販売承認の意思決定のための信頼性のある証拠として利用するには、臨床現場の負担と質管理の体制の面でも高いハードルがある。

 プレスクリールは、この意見表明の前提条件として、現在の医薬品の承認要件をさらに弱めるべきでないと述べている。これまでもビッグデータ、リアルワールドデータの規制の意思決定への活用についてはFDAはじめ規制当局のスタッフから懸念が繰り返し表明されており、注目情報でも取り上げてきた(※2〜5)。今回のプレスクリールの意見表明については、ピンクシート誌4月29日号も取り上げて紹介している。

 承認の迅速化・効率化に向けての大きな力が働いているなかで、各国の規制当局が安全性・有効性を担保し国民の健康に寄与できる規制の責任の果たし方はどうあるべきだろうか。検討過程の透明性も重要な課題であろう。(N)