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医薬品の有効性安全性審査へのリアルワールドエビデンス/データ利活用 ―FDAスタッフによる観点 (JAMA誌)

2018-11-05

(キーワード: リアルワールドデータ/エビデンス、有効性安全性評価、JAMA誌、観察研究、医薬品承認)

 日本では積極的になされることはないが、米国では医薬品行政のトピックとなる事項に関して、FDA(食品医薬品庁)の幹部スタッフがNEJM(ニューイングランド医学雑誌)やJAMA(米国医学会雑誌)に観点・方針などの解説記事を寄稿することが習わしとなっている。

 ここで紹介するのは、医薬品承認の基礎となる安全性・有効性(effectiveness)評価に関連して話題となっているリアルワールドエビデンス/データ (RWE/RWD) について、FDAの医薬品評価研究センター(CDER, シーダー)スタッフのJacqueline Corrigan-Curay, Leonard Sacks, Janet Woodcock (センター長)が、JAMA誌2018年9月4日号の Viewpoint (観点)欄に寄稿した「医薬品の安全性・有効性評価のためのリアルワールドエビデンス/データ」の概略である。
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 何百年もの長い間、医薬品などの開発はリアルワールド(実地診療)での経験に基づくものであった。1700年代の壊血病の柑橘類での治療、1920年代のインスリンによる糖尿病の治療などがその例である。

 1940年代に現代的なランダム化臨床試験(RCT)が初めて行われ、ランダム化と遮蔽は治療効果をかたよりなく評価するゴールドスタンダード(判断基準)となり、医薬品などの承認はこれによるようになった。一方厳密なプロトコル(研究の実施要領)によるRCTにはコストが高く、広いリソース(資源・財源)が必要で、しばしば長期間を要するなどの問題が存在する。

 FDAは、安全性監視においてはこれまでもリアルワールドデータを用いてきた。また有効性面でも、ある種の希少疾患やがんなどで疾病の経過が予測でき薬物効果が相当に大きいものについては、歴史的対照(リアルワールドデータ)の利用で承認もしてきた。

 FDAは現在、リアルワールドデータが有効性のエビデンス生成に利用できる他の分野を明らかにすることに焦点をあてて検討している。このために用いるデータの質と適合性の確保とともに、エビデンス生成への分析方法の評価が必要である。電子データは研究利用を想定したものでないので、例えば適応追加申請に必要な項目のデータがしばしばとられていない。

 リアルワールドセッティング(環境)のもとでのRCT実施については、FDAがサポートしたSentinel(安全性モニタリングのための統合したシステム)における最初のRCTがあり、安全性評価に用いられた唯一のものである。FDAは有効性のエビデンス生成にリアルワールドデータと観察研究を役立たせられないか関心をもっている。FDAはエンドポイント(有効性評価の目標項目)が十分に定義され、疾病の臨床経過が予見できて十分に理解できるときは観察研究での対照を利用できると考えている。観察研究で起こる体系的なバイアス(ゆがみ)を大きなデータセットと統計学的手法が十分に修正できるかは更に研究が必要である。これらの検討の一部分として、FDAは約30のすでにRCTで認められた有効性のエビデンスと同じ結果を観察研究が再現できるかどうかの研究に財政支援している。
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 FDAの医薬品評価研究センターのセンター長も著者のひとりであるこのJAMA誌の論文は、医薬品の安全性・有効性評価のためのリアルワールドエビデンスとリアルワールドデータの位置づけと現状について、比較的客観的に記載されている。重要なのは、米国でもリアルワールドエビデンス/データ(観察研究データ)による医薬品承認が可能かはまだ検討している段階ということである。

 にもかかわらず、日本は、世界に先駆けて医薬品承認において介入検証試験でなく、リアルワールドデータ(観察研究データ)による安全性・有効性確認で足りるとする「条件付き早期承認制度」を、国会で審議される法律でなく、厚生労働省の課長通知で2017年10月に即日実施した。この制度に先行した再生医療等製品の「条件及び期限付き承認制度」は、販売後期限を切って介入検証試験による安全性・有効性の検証を求めているが、今回の医薬品についての「条件付き早期承認制度」は、この介入検証試験での検証が取り払われた。他にも最先端の新薬をわずかな情報のみで正式承認して市販する、対象となる薬剤の範囲が明確でなく予防薬も対象となるなど問題が多い。

 薬害オンブズパースン会議はこれに対し、承認条件は検証的臨床試験の実施による有効性安全性の証明を必須とすること、直ちに制度の運用を停止し、同様の制度を導入する場合には、薬機法の改正により法律をもってその要件・効果などを定めるよう求める意見書を2018年5月29日に提出した(※1)。

 現在この制度については、製薬企業の側から予見性をもった恒常的な制度とするために、法律化するよう要望が出され、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会で来春の薬機法改正を目指し検討されている。薬機法改正となると今度は国会審議にもかかるので、取り組みを強める必要がある。 (T)