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糖尿病治療薬の開発は、企業にとってもはや魅力的なものと言えない

2011-02-25

 ロシュ社の国際臨床開発代謝部長、アンダース・スベンソン氏は、糖尿病治療薬開発の今後について、欧州医薬品庁(EMA)と米国FDAの臨床試験に関する心血管系リスクに関する基準が、企業にとっては、他の分野へのシフトを強要する、大変リアルな問題となっていると講演した。
 ワシントン特別州での糖尿病治療薬開発をテーマとした医薬品情報協会ミーティング(行政・企業・大学研究者が集まる重要なイベント)における講演内容を紹介したピンクシートの記事を紹介する。
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 心血管系の安全性を証明するための新基準の要求により、この2年間で、糖尿病の評価のあり方の判断は劇的に変化しており、新薬の承認前と承認後の臨床試験の規模、期間、コスト、リスクが増大している。新しい治療薬は、脂質、血圧、あるいは体重などの心血管系リスク因子に有益な効果を示すか、あるいは、大血管系の評価に有益性を示すことが求められる。心血管系リスクに焦点が集中している時代にあり、新しい糖尿病治療薬は、血糖値指標であるHbA1Cを低下させる能力以上のものを証明しなくてはならない。
 2008年12月付けのFDAによる糖尿病治療薬開発に関するガイダンス(※1)は、企業に対し、承認前に、心血管系リスクの増加を80%以内に抑える(1.8基準)ことを要求している。そして、この基準を満たした上で、リスク増加を30%以内に抑える(1.3基準)ことができない場合は、市販後の心血管系アウトカム試験が要求されることになるであろう。
ガイダンスの内容は、直ちに開発中および審査中の製品に適用されている(※2)。
 インクレチン関連薬のDPP-4阻害剤「オルグリザ(サキサグリプチン)」(ブリストルマイアーズスクイブ/アストラゼネカ社)と、GLP-1アナログ「ビクトーザ(リラグリチド)」(ノボノルディスク社)は、心血管系アウトカムのための長期臨床試験が求められ、現在進行中であるが、最終的には承認された。しかし、武田のDPP-4阻害剤アログリプチンは、承認前に心血管系の安全性データが必要との理由で新基準が適用され、承認が見送られた。
 これは米国だけのことではない。欧州医薬品庁(EMA)が公表したガイドラインは、新たな糖尿病治療薬は肥満、血圧、脂質などの心血管系リスクファクターに対して少なくともニュートラルまたは有益な効果を示すことを求めている。
 このような状況下での開発は困難さと費用を要し、実際に、心血管系ベネフィットを示せる糖尿病薬治療薬がいつ、どのように生まれるであろうかとスベンソン氏は疑問を投げかけた。糖尿病は、企業にとって、今や、2年前ほど魅力的ではない。ロシュは、糖尿病治療薬の開発は、もはやHbA1cに頼らない世界に向かう準備をしていると語った。
 フロアーとの討論で、シーダーズ・サイナイ心臓研究所の循環器専門家サンジャイ・カウル氏が、市販後のアウトカム・スタディで心血管リスクの1.3基準が達成されなかった場合、FDAは医薬品を市場から撤去させる立法上の権限を持っているのかと質問したが、FDAメンバーの誰もこの質問に答えなかった。
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 我が国では「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」(2010年7月9日付)が公表4)されたが、心血管系リスク評価に関しては、FDAガイダンスが要求する内容は日本では困難として基準化を見送った。そして、FDAがガイダンスを適用し、心血管系リスク評価のための臨床試験を求めたアログリプチン(商品名ネシーナ:武田薬品工業)に関して、日本はいち早く承認し、心血管系リスク評価のための臨床試験も義務付けていない。
 今後も、糖尿病治療薬に関して、心血管系リスク評価を考慮しない承認が続くならば、新薬の安易な承認国として、危険な実験場となることが予想される。
 薬害オンブズパースン会議は、新糖尿病治療薬の急性合併症への対応と心血管系リスク評価に関して、「インクレチン関連薬に関する要望書」(2010年12月24日付け)を厚生労働省に提出した。  (N.M)

※4 薬食審査発0709第1号 「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」について(平成22年7月9日)