注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

「患者団体と製薬企業の協力」についての調査(フィンランド)

2010-08-11

(キーワード:患者団体、製薬企業、フィンランド、cooperativity)

 フィンランドの国立健康福祉研究所と国立福祉健康監督局による調査報告がSocial Science & Medicine誌に発表された(2010年70巻1171-75)。「患者団体と製薬企業の協力(cooperativity)」(訳注1)と題したこの調査は2003-2004年に行われたものである。著者はこの時期が、患者団体と企業との間の関係が批判的なトーンで議論される前だったので、アンケートに対して懐疑的になったり批判を恐れるといったことがなく偽りのないものが得られたと述べている。520万人の人口をもつフィンランドには130の疾病関連の患者団体があるが、このうち55団体と企業20社から得られたアンケート調査とインタビューなどで得られた結果を分析したものである(註2)。分析の一部と、著者の指摘した問題点を以下に要約した。
……………………………………………………………………………
 アンケートが回収された55の患者団体のうち39団体が企業から資金援助をうけていたが、明確な金額の報告は21団体のみで、金額は300-58000ユーロ(およそ3万–580万円)であった。一方、企業20社の回答は金額について明確に書いたのは半数で、他は“少額”“秘密”“マーケティングの数%”などとぼやかしていた。「協力」の形態は、資金援助、雑誌等への広告、団体セミナーへの企業参加、印刷代補助など多様で多面的であったが、患者団体も企業も両者ともに問題をかかえているという意識を持っていた。患者団体は支援が少なすぎる上に不確実である事を問題としながらも(n=15)、一方で独立性や客観性がおびやかされるとした(n=11)。企業は「協力」とマーケティングのルールが、企業内で不明確であるとした。「協力」の利点として、企業は患者への製品の情報提供(55%)、販売戦略の助けに成る(30%)、患者情報の企業への提供(25%)、メディアへの情報提供の助け(25%)をあげた。また、企業がある薬をよりよい保険の償還ランクに入れたい時、患者団体のロビー活動は有益であると答えた。

 調査結果が示す患者団体と製薬企業の密接な関係は、取り上げるべき政策課題を提起している。第一に、医療政策を決める際の現在の考え方は患者の意見を聞かねばならないことであり、そのために患者代表は委員会に出席し意見聴取を受けるが、彼らが頼る資金源をみると彼らが誰の代表かという疑問がでてくる。患者団体の独立性の保証が必要である。第二に、両者の「協力」には透明性が欠けている。フィンランドでは2008年に一つの企業のみによる患者団体の後援の禁止などのルールを作成し、2009年には企業に患者団体の支援を公開することを義務化する立法を行った。しかし、患者団体には要求していない。医療政策への患者団体の役割は大きくなる傾向にあるが、彼らの資金についての問題は、彼らの信用性の決め手となるものである。患者団体は彼らの社会的な役割を成しとげるためには、まず収入を透明にした上で、非商業的な資金を継続的に得る事が必要である。第三に、患者団体の独立性を保証するようなモデルを議論すべきである。RAY(訳注3)は企業資金を減らすための良いシステムとして機能しているが、EU規制では問題になるかもしれない。第四に、企業は患者団体をマーケティングに利用している。企業は新しい情報の源であるが、一企業のみで作られる情報には客観性が少ない。それにもかかわらず、現状では半数の患者団体が企業から情報を得ているという問題がある。

 規制の法律は、患者団体Webページに見られる企業へのハイパーリンクなどを含めて急速に進化するマーケティングの手法に追いつかず、適切な監視が出来なくなってきている。
………………………………………………………………………………..
 この報告は、患者団体は社会的な役割を担っていると述べ、医療政策の一翼を担う存在であると位置づけている。そのためには資金は非商業的であるべきだとしている。患者団体の独立性確保のための資金をどう捻出するかフィンランドでは議論がはじまるようであり注目したい。マーケティング手法のインターネット上での進化に法的規制が追いつかない事も指摘されているが、このことを患者はもう一度考える必要がある。(ST)

訳注1)”cooperativity”の意味は、「協同、協力」の他に「[生態]一定地域に住む生物間の相互利益的な作用」がある(小学館ランダムハウス)。患者団体と企業の相互利益の実体調査ということになるが、ここでは“協力”と訳した。

訳注2)データ源:85団体に送付(回収65%:55団体)。企業20社に送付(2社はフィンランド企業,他は多国籍企業:回収100%)。13患者団体にインタビュー。Web ページ調査。RAY電子ファイル(訳注3)。アンケートは、TV会社が行い結果の検討は当局が行った。患者団体の最も古いものは1897年設立、平均設立年は1977年。

訳注3)RAYはフィンランドスロットマシーン協会。公的機関でギャンブルの専売権から得られる収益を管理している。医療や社会福祉のための非営利団体はここから援助を受けられる。患者団体の多くはここから資金援助を受けている。RAYから患者団体に支払われた資金は、2002年950万ユーロ、2009年は1060万ユーロ(およそ1億円)。