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新規経口抗凝固剤イグザレルト承認の基となった臨床試験でワルファリン群に用いたデバイスに重大な欠陥

2016-03-03

(キーワード: イグザレルト、ROCKET AF試験、ワルファリン群、INRatioデバイス、欠陥、FDA長官候補者関与)

 経口抗凝固剤の標準薬ワルファリンは、適正使用のために血液抗凝固時間のモニタリングを行い、用量を調整しながら用いられる。この凝固時間モニタリングに用いられている『INRatio』(製品名)というデバイスには重大な欠陥があり、正しく測定されないことがこれまでも問題になっていた。 『INRatio』は、血液凝固時間の簡易測定器で、患者の病室で簡単に測定ができるのが特徴である。 2014年12月、このデバイスの販売企業が欠陥を認め、米国FDA、EU医薬品庁(EMA)が、このデバイスを用いて行われた新規経口抗凝固剤(NOAC)のひとつであるイグザレルト(一般名リバーロキサバン)と標準薬ワルファリンとの比較試験成績に与える影響について検討を開始した。

 『INRatio』は、凝固時間を実際より小さな数値として測定する傾向があり、その結果を信じてワルファリンの投与量を増やせば、ワルファリン群での大出血の頻度が増し、イグザレルトとワルファリンの比較が公正にできないという疑いである(※1)。 米国の医薬品医療機器の民間監視団体であるパブリックシティズンが2015年12月10日、この問題についてFDAに送った意見書などをウェブサイトに掲載した(※2)。その要旨を紹介する。
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 パブリックシティズンは、FDAに対し、新規経口抗凝固剤イグザレルト(一般名リバーロキサバン)承認の基となった、標準薬剤ワルファリンとの比較臨床試験(ROCKET AF試験)において、ワルファリンの投与量決定に用いられた凝固時間モニタリングデバイス『INRatio』を用いた不正確な凝固時間測定が試験結果に及ぼす影響について精査するよう要請した。

 パブリックシティズンは、 同デバイスに関して報告されたすべての不都合な事象を含むFDAのMAUDEデータベースを分析し、『INRatio』に関して10,914の報告を見出した。

 そのうち、9,469の報告は、INR(国際標準化プロトロンビン比)の通常のラボでの測定と比較して不正確なINRが測定された場合で、死亡や重篤な傷害等につながり得ると判断されたものである。

 残りの1,445の報告は、不正確な測定結果でワルファリン量を増加させた場合と、それと比べると多くないがワルファリン量を減じた場合を含んでいる。これらは必ずしも出血などに連動しないが、FDAは患者を必要のないリスクにさらしたとみなしている。

 これらの事実はROCKET AF試験の成績に重大な疑問符を突きつけるものである。

 もうひとつの関心は、現在FDA長官候補者となっているRobert Calliff医師が、イグザレルトのROCKET AF試験で企業にアドバイスする運営委員会の共同議長として深くかかわっていたことである。『INRatio』は、この試験が開始された時点ですでに欠陥を示す多くの報告が公にされており、FDAが企業に2度にわたり患者に死亡を含む重篤な傷害を与える可能性があると警告書簡を送っていた。

 パブリックシティズンはRobert Calliff医師がデューク大学在職時に多くの製薬企業・デバイス企業と20年以上にわたり金銭的関係など緊密な関係にあったことから、 Calliff医師のFDA長官指名に反対してきた。Calliff医師は、イグザレルトについて審議するFDAの諮問委員会が開催され、FDAがROCKET AF試験でのワルファリン群の被験者の不適切な管理を批判した際にも最も激しく批判に抵抗した。イグザレルトの販売企業であるバイエル社は、最近FDAに『INRatio』の欠陥がROCKET AF試験の成績に影響を与え得ることを認めた。

 パブリックシティズンの創始者でありシニアアドバイザーであるSidney M Wolfe(ウルフ)医師は、抗凝固剤療法の世界的な権威であるオランダ・ライデン大学医学センターのF.R.Rosental医師と連名で、2015年12月10日FDAのStephen Ostroff代理長官に書簡を送り、FDAがイグザレルト問題の徹底したレビューを行うことを要請している。 パブリックシティズンはまたFDAに対し被害を拡大しないよう『INRatio』の市場からの撤去について検討するよう求めている。
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 当会議は、2016年3月2日付で経口抗凝固剤プラザキサに関する意見書(※3)を厚生労働省、製薬企業に、また心房細動ガイドラインの利益相反問題に関する公開質問状(※4)を製薬企業と学会に提出した。このイグザレルトの問題はプラザキサの問題と、それぞれの承認の根拠となった臨床試験で比較薬剤のワルファリンが適正に用いられていないという重大な欠陥で共通しており、両剤の有効性はいずれも実証されていないことを示している。また、ともに製薬企業との利益相反が問題となっている点でも共通している。 (T)