注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

販売承認についての情報公開などEUの医薬品規制の改善には今が好機

2010-06-28

(キーワード: 情報公開、医薬品規制、医薬品承認決定情報、EU、DG Sanco、ガラティーニ)

 2009年12月欧州委員会(EC)のバロッソ委員長は医薬品政策のマネジメントを、これまでの企業・産業総局から保健・消費者保護総局(DG Sanco)に移行させるとアナウンスした。BMJ誌電子版2010年3月30日号が、イタリアのマリオ・ネグリ薬理学研究所所長シルビオ・ガラティーニ教授と同研究所のバーデル医薬政策部門長との共著である「医薬品規制の透明性を高める欧州のまたとない機会」の論考を掲載している。以下に要旨を紹介する。なお,ガラティーニ教授は、2007年10月の日本薬剤疫学会で特別招聘講演(※1)を行っている。
----------------------------------------------------------------
 オセルタミビル(タミフル)の効果に関する疑問(※2、※3)が、新薬の販売承認申請書類をめぐる非開示情報についての論議を再燃させている。情報が公開されれば、科学コミュニティによる評価が可能となり、独立した関係者が新薬の益とリスクのプロフィールを販売前に明確にすることも可能となる。EMA (欧州連合医薬品庁、従来EMEAと略されてきたが同一)をこれまでの企業・産業総局から保健・消費者保護総局のもとに移す最近の動きは、透明性を高める好機である。
 新薬が販売承認された際に公開される資料には、プレスリリース、製品概要(SPC、処方者向け)、患者向け添付文書(PIL)、欧州公共評価報告(EPAR、企業作成の概要と行政による承認するまでの過程の概要の組み合わせ)の4種類がある。
 しかし、製品概要(SPC)には承認がいつ多数決で決まったかの情報がない。欧州公共評価報告(EPAR)には承認に反対した少数者がなぜ反対したかの理由の情報がない。製品概要(SPC)は他の類薬との比較情報を記載していない。比較情報として、効果または安全性での差異が臨床的に重要かの情報、また他薬に抵抗性のある患者がどのように新薬に反応するかの情報が必要である。
 欧州公共評価報告(EPAR)はヒト医薬品委員会(CHMP)が評価にあたって議論した重要な問題を反映していない。また審議に際し2人の報告担当者が最初に提出したレポートを公開していない。また企業との間で質疑回答された事項についても公開していない。またどのように最終決定に至ったかも明確にしていない。
 最後に、EMAは企業が申請時に提出したオリジナル資料はどれも公開できない。一方米国では、FDAはオリジナル資料の少なくとも本質的な部分を公開できる。
 公開を妨げているのは、EMAがこれまでずっと企業・産業総局の傘下にあったことと、公開が競合企業を利するため企業秘密として扱うという法律である。しかし、公開が競合企業を利するというのは活性成分の製法とその発見に用いた方法については「企業秘密」と言えるかもしれないが、とりわけ毒性研究などの前臨床試験と比較臨床試験については妥当しない。また、FDAにできることがEMAにできないというのも納得されることでない。
 以下に、欧州保健委員会がなすべき医薬品規制の改善策を示す。

・より厳密な有効性のエビデンス −すべての医薬品は臨床エンドポイント(効果の指標)を用いた適切な期間にわたる研究でその益(ベネフィット)が証明されねばならない。
・決定に関し用いられたエビデンスについてのより大きな情報公開
・毒性のシグナルまたは有効性がないことを検出するための市販後医薬品監視ネットワークを欧州規模で確立 −結果は以前の決定に影響される可能性のある販売承認を与えた機関とは別の機関が評価するべきである。
・新しく承認される新薬は従来品と比較して有効性または安全性で優れるものでなければならない。
・欧州委員会は製薬企業によって生み出されたデータが支持されるかどうかの独立した研究に資金を提供すべきである。また、商業的には魅力がないが公衆衛生の観点からは臨床的価値のある医薬品候補を探るべきである。
・欧州委員会はEMAが製薬企業の支払った手数料に依存しなくてよいよう、EMA経費を賄うべきである。
----------------------------------------------------------------
 本文中にもあるように、EMA(EU医薬品庁)の情報公開は米国FDAと比較しても非常に遅れたものとなっている。米国FDAは透明性推進タスクフォースを設置し、一層の情報公開を進めることを明らかにしているが(※4)、EMAが企業・産業総局の傘下から保健・消費者保護総局の傘下に移ることで、EMAの情報公開が進むことを期待したい。
 ガラティーニ氏たちがあげている情報公開を進めるべき内容と、欧州保健委員会がなすべき医薬品規制の改善策とは、日本の厚生労働省・PMDA(医薬品医療機器総合機構)にとっても非常に参考になる事項である。「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」最終提言と重なる部分もあり、国際的な共通目標ともなるであろう。  (T)