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タミフルのコクランレビューが明らかにしたロシュの情報操作

2010-02-05

(キーワード: タミフル、コクランレビュー、ロシュ、情報操作)

 タミフルに関する2006年のコクランレビューが2009年12月に改訂され、前回はタミフルがインフルエンザ関連の合併症の予防に有効とされていたのが「効果は証明されていない」に変更された(※1)。コクラングループは、日本の小児科医・林敬次氏からの指摘を受け入れ、前回に有効の根拠とされた文献について調査をした。公表されていない文献についてロシュから詳細なデータが得られず、多くの疑惑が明らかとなり、これらの文献を除外した結果評価が変更されたものであった(※2)。
 今回のコクランレビュー改訂を機会に明らかになったことを、BMJ誌電子版2009年12月8日のタミフル特集記事からまとめる。
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 林敬次氏は、前回のレビューはコクラングループ自身がデータを分析したものでなく、米国内科アーカイブ誌に発表された他のレビュー(Kaiserら、2003)の記載をそのまま受けいれたものであることを指摘した。また、レビューの著者はロシュの従業員4人、ロシュが支払いをしたコンサルタント、それにKaiser氏であり、レビューの対象は10のランダム化比較臨床試験(RCT)てあるが、そのうち公表されているのは2試験に過ぎない。残りの8試験の内容を詳細に検討しなければ、タミフルがインフルエンザ合併症に有効との結論は得られないと指摘した。
 この指摘を受け、コクラングループがKaiser氏にデータを明らかにするよう求めたが、Kaiser氏からはロシュに言ってくれとの返事であった。そこでロシュにデータ提供を求めたところ、送られてきたのは機密保持契約書であった。断ると不十分な文献が送られてきて、その後やりとりを繰り返したが、結局レビューに必要なデータは得られず、コクラングループはこの8試験を評価対象から除外した。
 公表された2試験を含めこれら10試験は、論文や抄録などに書かれたロシュ従業員の人名がロシュから販売承認のために行政に提出された書類には見られず、一方販売承認のために提出された書類に見られる人名は論文・抄録などには書かれていないなどが明らかになった。一体誰が書かれた内容に責任を持っているのか? 
 また、ゴーストライターの使用が明らかになった。ロシュに雇われた医学コミュニケーション会社であるAdis社の元従業員が、インフルエンザがいかに重大な問題か、そしてタミフルこそその答だなどと書かねばならなかったと証言している。しかし論文・抄録には関与の記載はなく、一方では著者として名前があがっている医師が自分は関与していないとBMJ誌に語っている。
 10試験の中には2,691人の患者が参加したとされるタミフルでも最大規模の臨床試験が含まれているが、それがどうして公表されないのか? 試験でのインフルエンザ感染の割合がどうしてこのように高いのか? 試験での有害事象の報告がどうして少ないのか? など多くの疑惑がある。
 BMJ誌特集記事は、ワクチン同様に国の政策として国民に使われる「公衆衛生薬」についてのエビデンス(科学的証拠となるデータ)が、企業が行った臨床試験データに依存していることに疑問を呈し、公的資金による臨床試験の必要性について記している。
 特集のまとめともいうべき編集長名の論説「何故われわれはオセタミビル(タミフル)についてすべてのエビデンス(科学的証拠となるデータ)を得られないのか?」(副題: 医薬品臨床試験のすべてのデータは科学コミュニティの吟味に用い得るようにしなければならない)は次のように述べている。「今回投げかけられている問題は単にタミフルの有効性・安全性についての疑惑にとどまらず、医薬品が評価・規制・販売促進されるシステムに大きくかかわるものである」。  (T)