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処方薬の消費者への直接広告(DTCA)―ニュージーランドの経験からEU への警告

2007-11-21

(キーワード:DTCA、EU,ニュージーランド、アメリカ合衆国、マーケッティング拡大、企業スポンサー、当事者主義、独立医薬品情報に関する国際的協同)

昨今、製薬企業は新薬開発が停滞し、既存薬のいっそうの市場拡大や創出のために新たな広告手段を求めている。日本では、医療消費者や患者団体に資金援助をしたり、新聞・TVのメディアで有名人を使って、製薬会社が提供する‘患者情報’による一般の人々の囲い込みが行なわれている。
多くの先進国では禁止されているにもかかわらず、アメリカ合衆国では1997年8月に、ラジオとTVによる処方薬の消費者への直接広告(DTCA)が認可された。それ以来、インターネットの普及とあいまって、米国民の薬剤消費量は日本を抜いて世界一となり、DTCAは市場の成長を大きく促進する可能性を示してきている。反対派も力を増してきている一方で、EUが再度DTCAの導入検討を始めている。以下はBMJ誌2007年10月6日号に掲載された(※1)、アメリカ合衆国同様DTCAを容認しているニュージーランドの研究者による、自国の経験からのEUへの警告である。
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(要約)
  ヨーロッパ議会は、すべてのメディアによる製薬産業による患者への情報提供を容認しようと考慮中である。2002年に一度、DTCAは却下されているが、ヨーロッパ委員会は、製薬産業と患者間のコミュニケーションを再度認めようと新提案をしている。独立性という言葉を客観性に置き換えるというものだが、情報は客観的かもれないが、不完全さや、バランスや関連性の欠如で、いまだに消費者を誤誘導している。製薬会社がバランスの取れた、比較に基づいた包括的な情報を提供することはない、とDTCA反対論者は考えている。先進国の中でDTCAが認可されているのは現在のところ、ニュージーランドとアメリカ合衆国だけで、それぞれの国内では社会や医師たちからもその反対の声は大きくなってきている。ニュージーランドはヨーロッパ諸国に類似した医療制度を持っているので、EUはニュージーランドの経験から学んでもらいたい。
 ニュージーランドは、1990年代初頭にこの宣伝方法を開始し、徐々に拡大していたが、1997年に合衆国FDAが規制緩和するやいなや、合衆国でもニュージーランドでもこのDTCAは急増した。製薬企業は、昨年アメリカ合衆国で50億ドル(約5500億円)、ニュージーランドでも数千万ドルをDTCAに費やしている。2000年には、両国の保健監視団体が警告を発していたが、医者達の反応は鈍かった。ガイドラインの遵守がほとんどなされていないことも判明した。保健省は同年、広がる懸念にパブリックコメントの募集をしたが、事前の予想通り広告業者や製薬企業からの意見提出が一般利用者の意見より多く、自己規制に任せてDTCAは継続するという結論になった。DTCAの推進派と反対派が意見を戦わす中、政府は規則遵守についての将来的な見直しも行なっていない。この制度は、誰かが不服申し立てをしないかぎり、DTCAの公平性や告発の科学的価値は独立して評価はなされない。不服申し立ての少なさは、消費者の多くがミスリードされていることを証明する十分な手段を持たないし、不服申し立てまでのプロセスも時間の浪費であると考えるからである。こういう状況の中で、DCTAは拡大し、極端なまでの影響力を発揮した。
例えば、短いTVコマーシャルで宣伝された爪水虫用の抗真菌薬は売り上げが2倍になった。関節炎を持つ高齢者に特にターゲットを絞って、心臓疾患の副作用リスクのあるレフェコキシブなどのCOX-2阻害薬が大々的にTVで宣伝された。だが高齢者はその副作用ハイリスク集団なので、結果としてレフェコキシブを市場から引き上げねばならなかった。また、2002年に、グラクソは人気商品であるべクロメタゾン吸入剤の販売を止め、高価なフルチカゾン吸入剤への処方変更を医者に頼もう、という大キャンペーンをTVで行い売り上げを劇的に伸ばした。専門家はこのキャンペーンは患者の期待を裏切るものだと考え、多くの家庭医は、余分な手続きや説明の難しさにわずらわされて大いに迷惑を蒙った。
専門家の警告に後押しされ、家庭医の研究グループは、公衆衛生におけるDTCAの影響を調査し、将来的には禁止を要請する報告書を政府に提出している。その報告書は大きな反響を呼び、意見を寄せた5分の4は支持した。製薬企業や広告会社からの反応もすばやく、それらは倫理委員会や調査を担当した大学への不服申し立てをして反撃したが、世論の支持は得られなかった。
2002年から2004年にかけて、国内のほとんどの医療専門家(薬学研究者も含む)はその専門的立場から、DCTAの禁止と国が出資する独立した消費者への情報機関の設立を呼びかけたが、例のごとく、調査方法や結果の対立で、ニュージーランド政府は裁断を下さなかった。合衆国では理想的な議論が行なわれて、FDAによる継続的な消費者への調査では、薬の宣伝に対する消費者の否定的態度が増加している。だが心配なことに、消費者はDTCAを信じていないが、依然としてそれに乗せられてしまうのである。消費者は医療専門家からの情報提供を好み、ミスリードされることを嫌っていることが明らかになっている一方で、合衆国の州の担当機関でさえも、DTCAの情報は公平かつ適切で、100%安全な医薬品のみDTCAが許されていると誤解していることも判明した。
ニュージーランドでも、消費者の薬の知識における広告効果についての権威ある研究機関でさえ、DTCAに対して最初の賛成の立場からすでに反対に回っている。 市民や専門家からの懸念が大きくなってきたために、2003年後半にニュージーランド政府はDTCA禁止を決意したが、今日まで法律を通過させることが出来ないでいる。
2006年になって政府は今までよりは明確な、DTCAに対する当事者の意見を尊重するパブリックコメントを募集した。それへの反応はすばやく、独立した患者や消費者団体の90%は反対し、全投稿者の3分の2はDTCAに反対している。賛成意見の3分の2は、薬品販売で利益を得ている企業や団体のメンバーであり、その賛成派の5%は製薬企業から経済的支援を受けていることを公に認めている団体であった。
これらからEUへの助言は明らかである。企業が資金援助をする客観的と称する情報は、消費者の選択をあやつるだけでしかない。消費者に、薬のよりよい判断の援助をするのでなく、薬物治療への依存(pharmaceuticalization)と、長期的な安全性がわからない新薬(それも既存のものと効果がほとんど変わらない)に多くの市民を駆り立てるだけである。また、すでに伸びきっている医療予算のコストを増額させるだけであり、公衆衛生全体を危険に曝すことになる。
目指すべきは、薬についての選択をする必要がある消費者が、独立した情報を入手しやすくするための国際的な協同作業への参加であろう。 
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 なお、当会議は、ニュージーランド政府のパブリックコメントに応じ、2006年4月28日付けでDTCAに反対する意見を提出している。(※2) (KN)