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特典の受領が常態化 医師と医療産業との関係に関する全米調査で明確に

2007-08-29

(キーワード 医師と企業との経済的関係、全米医師調査、Eric G Campbell)

 ニューイングランド医学雑誌 (NEJM)の編集長であったマーシャ・エンジェル医師は、その著「ビッグ・ファーマ」(監訳・栗原千絵子他、篠原出版新社、2005年)において、製薬会社がいかにして自社製品を医師たちに売り込んでいるかについて、「教育や研究を名目としたマーケティングの偽装」等を生々しく論じている。そして、「医師の処方に対してリベートを渡すのは違法」であり、「医師という職業は気高い聖職のはずなのに、『飲食、お世辞、親睦』、とどのつまりは金銭のパワーの下僕に成り下がってしまっている」と厳しく告発している。そうした医師と製薬会社との関係の実態とそのことへの対処については、本「注目情報」欄においても、米国医学生(2005-11-16 ※1、2006-12-13 ※2)、フランス(2006-3-14 ※3)、米国社会事業団(2007-6-20 ※4)についての記事を紹介してきた。

適切な対策を講じるには、何よりも正確な実態調査が必要である。その意味で、NEJM 2007年4月26日号に掲載されたハーバード大学医学部医療政策研究所のCampbell博士らの全米医師調査の結果は、注目に値する。博士らは、2003~2004年にかけ、家庭医・内科・外科・循環器科・麻酔科・小児科の6分野の医師3167人を対象に、医師と企業との経済的関係の実態とその関連要因解明を目的として調査票の郵送による調査を行い、1662人から回答を得た。回答結果の概要は以下の通りである:
①94%が製薬企業と何らかの関係を有していた。
②83%が勤務地で飲食の提供を受け、また78%が医薬品サンプルを無料で受けていた。
③35%が専門的会合や継続的医学教育に関する費用の償還を受けていた。
④28%が相談や講演、臨床試験への患者登録への報酬を受けていた。
⑤専門別に見ると、循環器科の医師は、家庭医の2倍以上の報酬を受けていた。
⑥家庭医は他の分野の医師よりも、また1~2人ないしグループで開業している医師は医療機関の勤務医よりも、企業の営業担当者に会う頻度が高かった。
以上の結果から、Campbell博士らは、「医師と企業の関係はごく一般的であり、かつ、専門分野・就業形態・専門的活動による違いが見られる」と結論付けている。

こうした医師と企業との経済的関係について、2002年2月に米国・欧州の内科4学会が共同で作成した「新ミレニアムにおける医療プロフェッショナリズム:医師憲章」の中には、以下のような項目がある。「『利害衝突』に適正に対処し信頼を維持する責務:保険会社や製薬・医療機器企業などの営利企業との関係が、本来の職業的責務に影響する恐れがあることを認識するだけでなく、『利害衝突』に関する情報を開示する義務がある。」(李啓充:新ミレニアムの医師憲章、「週刊医学界新聞」2480号、2002年4月1日 ※5)。

日本医師会が2004年2月にまとめた「医師の職業倫理指針」(※6)には、「医薬品などの医療資材購入の採否や使用については、業者との個人的利益関係を優先させてはならない。業者との取り引きは適正なものでなくてはならず、特に薬品や医療資材代金の支払いに関する不適正な対応は医師の信用をおとしめる行為であり、避けるべきである。」との記載があるが、上記のような「利害衝突(利益相反)」に関する項目の記載が必要であろう。 (K)