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抗うつ剤SSRIは成人に対しても自殺企図リスクを増加させる

2005-02-28

抗うつ剤SSRIは成人に対しても自殺企図リスクを増加させる
  (キーワード: 抗うつ剤SSRI、成人での自殺企図リスク、システマティック・レビュ  ー)

 日本でもパロキセチン(パキシル)の小児・思春期大うつ病患者への投与が禁忌になりましたが、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)は成人に対しても自殺企図のリスクを増加させるのか、が注目されています。

 英国医師会発行のBMJ誌2005年2月19日号が、カナダのDean Fergussonや英国のDavid
Healyたちによる、702本の多数のランダム化比較試験(患者数87650例)を対象としたシステマティック・レビューで、SSRIが成人に対しても自殺企図のリスクを増加させることを示した論文を掲載しています(※1)。

  [自殺企図とSSRIとの関係: ランダム化比較試験のシステマティック・レビュー]

 著者たちは、メドラインとコクランライブラリー比較試験登録から、SSRIをプラセボまたは非SSRIを対照として比較したランダム化比較試験(1967-2003年)を選択しました。何を適応としてSSRIを投与したのかは不問としました。抄録だけのもの、クロスオーバーデザインのもの、フォローアップが1週間以内のものは除きました。プライマリー・アウトカム(最も主要な指標)は、致死性および非致死性の自殺企図です。

 SSRIとプラセボとを比較した411試験、SSRIと3環系抗うつ剤を比較した220試験、SSRIとプラセボおよび3環系抗うつ剤以外の療法を比較した159試験からなる、702試験(患者数87650例)が対象となりました(複数の比較を行った試験があるので、比較の数は公表論文数を上回っています)。そしてそのうち345試験(患者数36445例)が計143件の自殺企図を報告していました。1000患者あたり3.9(95%信頼区間3.3-4.6)の発現率です。期間を考慮すると1000患者・年あたり18.2の発現率となります。うつ病患者に限れば1000患者あたり4.9(95%信頼区間4.2-5.6)の発現率となっています

 プラセボとの比較でSSRIは、自殺企図のリスクを有意に約2.3倍に増加させました(オッズ比2.28、95%信頼区間1.14-4.45、NNH[何例に治療すれば1例の有害副作用を認めるかを示す指標]684、P=0.02)。

 3環系抗うつ剤との比較ではSSRIは、自殺企図のリスクに差は認められませんでした(オッズ比0.88、95%信頼区間0.54-1.42)。

 プラセボおよび3環系抗うつ剤以外の療法との比較でSSRIは、自殺企図のリスクを増加させました(オッズ比1.94、95%信頼区間1.06-3.57、NNH239)。

 サブグループでの解析で、SSRIとプラセボとの比較は、致死性の自殺企図には有意差はなく(オッズ比0.95、95%信頼区間0.24-3.78)、非致死性の自殺企図に有意差がありました(オッズ比2.70、95%信頼区間1.22-5.97、P=0.01)。SSRIと3環系抗うつ剤との比較は、致死性の自殺企図には差があり(オッズ比7.27、95%信頼区間1.26-42.03)、非致死性の自殺企図には差がありませんでした(オッズ比0.85、95%信頼区間0.51-1.43)。SSRIとプラセボおよび3環系抗うつ剤以外の療法との比較は、致死性の自殺企図には差がなく(オッズ比0.59、95%信頼区間0.16-2.24)、非致死性の自殺企図に差がありました(オッズ比2.25、95%信頼区間1.16-4.35)。

 著者たちは、今回の自殺企図リスク上昇の程度は高くないが、SSRIは非常に広範に使用されているので見逃せない社会的関心事であると述べています、また、システマティック・レビューを進める過程で、雑誌論文となった試験成績にバイアスがあり、リスクが過小評価されている可能性に遭遇し、SSRIのより厳密な自殺企図リスクの評価のためには、研究者から完全にそして正確に情報公開されたすべてのイベントを集めることが必要とも述べられています。
                               (T)

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