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抗うつ剤を安全に中止するエビデンスが欠けているとコクランレビューが結論

2022-01-26

(キーワード:抗うつ薬、長期投与、離脱反応、漸減による中止、コクランレビュー)

 抗うつ薬はうつ病や不安障害に広く使われており、うつ病寛解後の抗うつ薬による維持療法は再発予防のため重要であるとされている。ガイドライン(※1)では、再発性うつ病の場合は少なくとも2年間は抗うつ薬を継続することが推奨されている。ところが、多くの人がそれよりもはるかに長く抗うつ薬を服用しており、長期的な使用には利益を上回る害をもたらす危険がある。


 抗うつ薬を6か月以上服用しているうつ病や不安障害の人に対して、抗うつ薬を中止することが効果的で安全であるかどうかを調べることを目的としたコクランレビュー(※2、3、4)について、その概要を紹介する。

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 抗うつ薬の長期投与を中止するための様々な方法や抗うつ薬を継続した場合と中止した場合のメリットとデメリットを検討した。

 2020年1月までの検索では、33件の研究が見つかり、4,995人の成人参加者が含まれていた。これらの研究の対象者は、ほとんどが再発性うつ病患者であった。また、33件中13件の研究では、抗うつ薬が突然中止されていた。33件中18件の研究では、数週間かけて徐々に抗うつ薬を中止していたが、その期間はほとんどが4週間以内と短いものであった。

 抗うつ薬の突然の中止がうつ病再発のリスクを高めることや数週間かけた「漸減」がうつ病再発のリスクを高める可能性はあるものの、抗うつ薬を継続した場合と比較してデメリットは少ないことを示唆するエビデンスなどが見つかった。予防的認知療法(PCT)などを同時に提供することによって、抗うつ薬を漸減した患者の40〜75%が中止できたことなどもわかった。しかし、そのエビデンスレベルは、いずれも非常に低いものであった。

 全体として、エビデンスの確実性は「低い」から「非常に低い」の範囲にあった。エビデンスの確実性が低く評価された主な理由は、うつ病の再発症状と中止による離脱反応を区別していなかったことにある。また、ほとんどの研究が突然中止するか漸減期間が非常に短い(4週間以下)ものであった。また、ほぼすべての研究が再発性うつ病の人のみを対象としていたのも原因のひとつである。

 抗うつ薬をやめたいときは、医師と相談する必要がある。今後の研究では、再発性うつ病の人だけでなく、うつ病のエピソードが以前にないか又は1回しかない人、高齢者、不安のために抗うつ薬を服用している人などをも対象とすべきである。また、うつ病の再発症状と離脱反応とを区別することに注意しながら、抗うつ薬を長期間かけて漸減させる方法が研究される必要がある。

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 当会議では抗うつ薬、特にSSRIを中心に「自殺企図」、「衝動性亢進」、「胎児毒性」などのリスクや「うつ病キャンペーン」などの問題を要望書や機関紙、シンポジウムなどで取り上げてきた。また、投与中止に伴う「離脱反応」が「自殺企図」や「衝動性亢進」に関連することもあり、患者が自己判断で中止することが非常に危険であることも指摘した(※5、6、7、8)。

 今回のコクランレビューで明快な結論が得られなかったのは、実臨床で抗うつ薬の中止が丁寧に行われていないことの反映と考える。

 抗うつ薬やベンゾジアゼピン系薬剤などの中枢神経に作用する薬剤からの離脱は個人差が大きく、薬剤を安全に中止するためには、十分な漸減期間をとり、患者自身の必要に応じ、患者自身が減薬速度をコントロールするなど患者中心の丁寧な対応が必要である。様々な漸減戦略をテストするには、多くの研究が必要であり、当事者参加型で一人一人を丁寧に観察する臨床試験なども必要ではないだろうか。

 製薬企業のマーケッティングが「うつ病」から「双極性障害」にシフト(※9)したものの、一部の抗うつ薬の適応症に「疼痛」が追加されたことから長期に抗うつ薬を服用している患者は依然として多い。安易に処方がされないことも重要である。(G.M.)