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医薬品安全勧告:国際的な協調が必要

2021-07-20

(キーワード):Covid-19、新型コロナワクチン、DOAC‘s、国際的、協調性

 新型コロナワクチンの有効性が世界的に注目され、その情報を共有する流れが進んでいる。同時に、安全性についてもタイムリーに情報開示され、共有されるべく、各国間の協調が重要だろう。今回、薬による被害を防ぐために、各国の安全性情報や勧告が適時に共有されているかを調査した、Therapeutics Initiative(カナダブリティッシュコロンビア大学において1994年に設立され、医師や薬剤師などに治療・薬物療法に関する情報を発信している組織。以下「TI」という。)の2020年9月〜12月の報告(※1)を紹介する。

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 カナダのバネッサ・ヤング氏は、2000年3月、消化管運動促進剤シサプリドの副作用である致死的不整脈によって、15歳でこの世を去った。その2ヶ月前に米国食品医薬品局(FDA)はシサプリドの致死的不整脈の副作用について勧告を出していたが、カナダの規制当局Health Canada(HC)がこの警告を出したのは彼女の死後であった。

 薬の承認後何年も経ってから深刻な被害の兆候が表れるということはよくあることである。各国の規制当局は、医薬品の安全性勧告をしてきたが、そのような勧告は世界でどの程度一貫しているのだろうか?

 TIを含む国際的な調査団体が2007年〜2016年にかけて、カナダの規制当局(HC)、英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)、欧州医薬品庁(EMA)、オーストラリア医療製品管理局(TGA)、米国食品医薬品局(FDA)によって出された医薬品安全性勧告を調査したところ、政府機関の能力や透明性の違いによって差が出ていることが明らかになった。

 その調査期間である10年間に出された1441の規制薬物安全性勧告(うち680が薬物安全懸念に関連)の内、全ての規制当局によって勧告が出されたものはわずか10%にすぎなかった(※2)。特にカナダは、イギリスやアメリカの半分しか勧告を出していなかった。

 一つの例を挙げると、米国とカナダにおいて直接経口抗凝固剤(DOAC‘s)のひとつであるダビガトランが承認されたのは2008年であるが、FDAとHCがその出血性リスクについて勧告したのはそれぞれ2013年と2015年であった。一方、米国、カナダに遅れてダビガトランを承認したオーストラリアは、規制当局TGAが米国やカナダよりも早い2010年に出血性リスクについて勧告していた。なお、TGAはリバーロキサバンの出血性リスクについて、世界で唯一安全性勧告を行っている機関でもある(※3)。

 DOAC’sクラスへの各国の規制当局のアプローチについて、調査対象期間である2007〜2016年に、DOAC’sに分類されるダビガトラン、アピキサバンおよびリバーロキサバンの出血リスクについて、各国の規制当局から19の勧告が出されているが、その内訳はHCが2,MHRAが8、TGAが5、FDAが4であった(※4)。このような各国の一貫性のないアプローチは、DOAC’sの安全性に誤った判断を生じさせた可能性もある。

 COVID-19の国際的な対応における各国間の調整は、保健上の緊急事態状況をも調整できる可能性を示している。ウイルスと同じ様に医薬品の安全性の懸念は越境する。一貫した規制当局の薬物安全性勧告が求められている。

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 2020年12月、厚生労働省の「医薬品等行政評価・監視委員会」の会合でも、国内外で審査している品目のうち、海外において安全性の面から指摘がある事例の情報を収集することなどを求める意見が委員から挙がった。海外では安全性に関する議論があっても、国内では議論がない問題もあるなどの指摘もでている(※5)。

 日本の厚労省も含め各国の規制当局は、必要な安全性情報を速やかに共有し、協調性を持って活動すべきである。

 なお、上記本文中に登場するDOAC’sに関し、当会議は、2016年3月に「プラザキサ(ダビガトラン)に関する意見書」(※6)を提出し、同年7月には、利益相反問題に関する公開質問〜要望(※7)などを行っている。
(N.A)