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アスピリン、イブプロフェン、ジクロフェナク等の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の妊娠時の使用による胎児への重大な影響に関してFDAが警告〜PMDA もNSAIDs の使用上の注意の改訂を指示〜

2021-06-01

(キーワード):NSAIDs、妊娠20週以降、胎児腎臓障害、羊水減少、OTC

 熱や痛みを和らげるのに広く使用されている非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は胎児を保護する羊水の減少をもたらし、胎児の腎機能障害、肺障害など、胎児に重大な障害をもたらすリスクがある。米国食品医薬品局(FDA)は妊娠20〜30週の妊婦に対するNSAIDs の処方は限定的にし、必要な場合にも最小限の用量で最短期間の処方とするよう注意喚起している(※1)。広く一般市民が購入できる広範な一般用医薬品(OTC 薬)の多くにNSAIDが含まれており注意が必要である。以下に2020/10/15付けFDA 薬剤安全情報の概要を紹介する。

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*どのような安全上の懸念か?

 FDAは、妊娠20週前後以降に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用すると、まれではあるが胎児に深刻な腎臓障害が起こり、その結果、胎児を包んでいる羊水レベルが低下し胎児に合併症を起こす可能性がありうると警告する。NSAIDsは通常、熱や痛みを和らげ、軽減するために使用され、アスピリン、イブプロフェン、ジクロフェナク、セレコキシブなどの薬が含まれる。妊娠20週前後以降、羊水のほとんどを胎児の腎臓が生成する。したがって腎臓の障害はこの羊水レベルの低下につながる。羊水は保護クッションであり、胎児の肺、消化器系、筋肉の発達を助けている。

 この安全上の懸念は特定の専門医の間ではよく知られているが、FDAは広く他の医療専門家や妊娠女性に推奨事項を伝えることとした。これは、処方薬と処方箋なしで購入できるOTC薬のすべてのNSAIDsに関わる問題である。

*FDAの対処

 処方薬については、胎児の腎臓障害とそれによる羊水減少のリスクを説明するよう処方情報の変更を要求している。処方を避けるようにとの処方情報の記載を、現在の妊娠30週ではなく20週前後以降とするよう勧告する。30週前後の使用は、胎児に心臓の問題を引き起こす可能性がある。もし20〜30週の間にNSAIDsを使用することが必要と専門家が判断した場合には、最短期間で最小有効量に制限すること、さらにNSAIDsの使用が48時間を超える場合には、超音波による羊水のモニタリングを考慮すべきであることについても記載変更を指示している。

 また、成人向けOTC薬の医薬品成分表示も更新する予定である。既に妊娠の最後の3か月間にNSAIDsを使用した場合、胎児に問題を引き起こしたり、分娩中に合併症を引き起こしたりする可能性があることから使用を避けるよう警告しているし、妊娠中および授乳中の女性に対してはこれらの薬を使用する前に医療専門家に尋ねるようにアドバイスもしている。

 これらの推奨事項の1つの例外は、妊娠に関連した状態のために、医師の指示のもと81mgの低用量のアスピリンを使用する場合である。

*妊娠中の女性への助言

 妊娠中の女性に対しては、医療専門家から特に指示がない限り20週以降にNSAIDsを使用しないこと、使用する前にこれらの薬の利点とリスクについて医療専門家に相談することを勧める。多くのOTC医薬品にはNSAIDsが含まれているため、成分表示を読んで、NSAIDsが含まれているかどうかをチェックし、わからなければ薬剤師や医療専門家に尋ねてほしい。

 アセトアミノフェンなどNSAIDsでない薬は、妊娠中の痛みや発熱を治療するために利用できるので、薬剤師または医療専門家に相談して、どちらが最適か判断することを勧める。

*医療専門家への勧告

 医療専門家に対しては、妊娠20〜30週の間のNSAIDs処方の制限、30週以降は避けるよう勧告する。NSAIDsによる治療が必要と判断された場合は使用を最少有効量と最短期間に制限し、NSAIDs治療が48時間を超える場合には、羊水の超音波モニタリングを行い、羊水過少症が見つかった場合はNSAIDsを中止すべきである。

*FDAの調査結果

 FDAは、妊娠中のNSAIDsの使用に関連する胎児の低羊水レベルまたは腎臓障害に関する本警告の根拠について、医学文献およびFDA Adverse Event Reporting System(FAERS)に報告された症例のレビューから以下の情報を特定した。

 2017年にFDA に報告された羊水レベルの低下または腎臓障害が35例あり、すべてが深刻だった。FDAに提出された以外の追加報告で、母親が妊娠中にNSAIDsを服用した新生児死亡2例は、腎不全で羊水が少ないことが確認された。他の新生児死亡3例は腎不全だったが、母親のNSAIDs服用中の羊水過少は確認されていない。低羊水レベルは妊娠20週という早い時期に始まっていた。低羊水レベルの11例は、妊娠中に羊水が調べられ、NSAIDs中止後は正常に戻った。これらの情報は医学文献からの結果と同様であった。文献によると、低羊水レベルはNSAIDs開始後48時間から数週間までの様々な期間で調べられ、ほとんどの場合、中止後3〜6日以内に元に戻っている。多くのレポートでは、NSAIDsを中止すると状態が戻り、同じNSAIDsの使用で再発した。

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 PMDAは、このFDAの注意喚起の情報を受けNSAIDsを含むすべての薬剤の添付文書改訂を指示した(※2、※3)。産婦人科医の間では、これまでもNSAIDs使用については妊娠後期の使用禁忌や初期の使用も含め、必要な場合はNSAIDsでないアセトアミノフェンを使用するなどの対処がされている。

 問題はこれらのNSAIDsが多くのOTC薬に含まれているということである。OTC薬の添付文書には、これまでも出産予定日の前12週間(28週以降の妊娠後期)は服用しないことが記載されている。また、妊娠中の女性は使用する前に医療専門家に相談するよう記載しているという理由から、今回の情報を受けての改訂はされていない。しかし、FDAが注意喚起しているように、妊娠後期だけでなく20週頃以降の中期にも特に注意が必要であることを添付文書に明記する必要がある。加えて、外箱へのわかりやすい注意書きなども工夫されるべきだろう。ドラッグストア等で販売にあたる薬剤師、登録販売員などに一層の安全管理や適切な医療・ケアの機会を促す助言等が求められる。(N)