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FDAとその諮問委員会の不一致は22%

2020-01-16

(キーワード:米国食品医薬品局(FDA)、諮問委員会、新規製品承認、適応追加、安全措置)

 日本では医薬品の承認前に申請資料を情報公開し意見聴取した例は、サリドマイド(多発性骨髄腫)と緊急避妊薬の2回しかないと思われる。しかし米国食品医薬品局(FDA)では多くの新規性の高い新薬について情報公開し、公開の諮問委員会を開催している。外部の専門家等から成る諮問委員会は、投票によって諮問委員会としての勧告を決定し、その勧告を受けて、FDAは最終的に措置を下す。

 FDAの機関決定と諮問委員会の勧告内容との一致度を調査し、FDAが諮問委員会の勧告に同意しなかった場合の要因を分析した研究が発表されたので(*)、その要旨を紹介する。
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 FDAは、意思決定を下す前に、諮問委員会から科学的助言としての勧告を受ける。諮問委員会は、FDAの意思決定の質の向上と、内部官僚と外部関係者との情報交換を目的とし、企業側、支払い者および患者など、FDAと関係しない個人の多様な利害関係者で構成される。

 2008年から2015年までのFDA諮問委員会における公開文書およびFDA諮問委員会が関与した医療製品データベースをもとに、医薬品・医療器材の承認、適応追加、安全性を評価する諮問に限定して、諮問委員会の勧告とFDAの機関決定との不一致に着目し、不一致に至る要因の分析を行った。

 この期間における376件の諮問のうち、271件が新規承認、78件が適応追加、27件が安全措置に関する内容であった。

 諮問委員会とFDA機関との不一致率は、全体で22%(83件)であった。その83件の内容は、承認のための評価が21%、適応追加が18%、安全措置が48%であり、安全措置の不一致率が最も高かった。

 不一致が生じた上記83件のうち、諮問委員会が市場に有利な勧告を行ったにもかかわらず、FDAが勧告に従わなかったケースは62件(不一致の75%)で、逆のケース(諮問委員会が市場に不利な勧告を行い、FDAが従わなかった場合)よりも多かった。その62件のうち、48件は新薬の承認で最も多く、13件が適応追加、1件は安全措置に関するものであった。しかし、新薬の承認に関する48件のうち29件は最終的には承認され、13件の適応追加の制限的結果のうち、4件は適応追加となった。このような措置は、FDAが、スポンサーに詳細情報を要求したり、承認を遅らせる措置をとらせたりすることにより、将来の規制介入を軽減させるためと考察された。

 諮問委員会が市場に不利な勧告を行ったにもかかわらず、FDAが市場に有利な措置を行ったのは21件(不一致の25%)で、その21件のうち安全措置に関するものが12件で最も多く、8件が新規製品承認、1件が適応追加に関するものであった。諮問委員会が安全措置を勧告したにもかかわらず、FDAは製品の市場販売を維持するために、安全措置を回避する傾向があった。

 不一致に関係する要因の分析としては、勧告にあたっての諮問委員会の委員同士での一致度が高い場合ほど、FDAの措置との不一致度は低くなった。また、公聴会やメディアでの取り上げ方、メンバーの利益相反などは不一致とは関連していなかった。

 結論的には、諮問委員会の勧告に対するFDAの措置の不一致は5分の1であり、FDAの保守的アプローチを反映して、新規製品の承認、適応追加の認可は少なく、安全措置は避ける傾向にあった。
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 この論文は、FDAの医薬品及び医療器材に関する措置に関して、諮問委員会の勧告との不一致に着目し、不一致の傾向と関連する要因を分析して、FDAの機関決定に対する諮問委員会の関与を評価する目的で実施された。米国では、専門家のみならず、支払い側や患者も諮問委員会の委員となり、公聴会やメディア報道も頻回に行われている。

 日本の承認制度の場合、厚労大臣の委託に基づいて医薬品医療機器総合機構(PMDA)で審査された後、その結果について薬事・食品衛生審議会へ諮問がなされ、同審議会の答申に基づいて最終的に厚労大臣が決定する仕組みとなっている。ところが、諮問機関である薬事・食品衛生審議会が、PMDAの審査報告結果に対して異議を述べることは皆無であり、米国の場合と比べると審議会による諮問はほとんど機能していないと言ってよい。薬機法改正により早期承認制度と先駆け審査指定制度が法制化された今、実質的な審議機能を発揮する審議会への改革を強く求めたい。(N.M)

                                    
参考文献:
* AUDREY D. ZHANG.et.al;Association Between Food and Drug Administration Advisory Committee Recommendations and Agency Actions, 2008–2015,The Milbank Quarterly, Vol. 00, No. 0, 2019 (pp. 1-24)

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