注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

FDAにより迅速承認をされた93のがん治療剤で、承認後の確認試験でOS、またはQOLで有効性安全性が検証されたものはわずか16%

2020-01-16

(キーワード:迅速承認、早期承認制度、ユーザーフィ法、がん治療薬、検証的試験、市販後確認試験)

 米国では1992年ユーザーフィー(審査費用の製薬企業負担)法の施行で迅速承認が制度化された。迅速承認は全生存期間(OS)や生活の質(QOL)などの真の臨床的エンドポイントでの検証は必ずしも必要ではなく、代理エンドポイントに対する効果を実証することで承認され、より早く市場に出すことができる。代理エンドポイントは真のエンドポイントが合理的に予測できるものである必要がある。迅速承認された新薬は、いわば仮免許での承認なので、市販後確認試験であらためて有効性、安全性を検証することが要求され、確認試験が行われない場合やリスクがベネフィットを上回る場合には迅速承認が取り消されることになっている。

 以下、米国における迅速承認制度25年間の経験のまとめたAaron Kesselheimたちによる論文(JAMA online 2019年5月28日論文※1)と、上記論文の直後に掲載されたEzekiel Emanuelたちの解説(JAMA online2019年7月1日※2)の要約である。

---------------------------
                                      
<JAMA online 2019年5月28>

 FDAは、1992年12月11日から2017年5月31日までの期間に迅速承認された抗がん剤のレビューを発表した。

 FDAが迅速承認した抗がん剤93件を検証した結果、51件(55%)において、臨床的利益が確認された。一方で、5件(5%)で承認が取り消され、残り37件(40%)は承認後評価が進行中だった。
また、真の臨床的エンドポイントである全生存期間(OS)の改善が実証できたのは15件(16%)にとどまり、19件(20%)は承認前試験で使用されたのと同じ代理エンドポイントで改善が報告され、17件(18%)が別の代理エンドポイントで改善が報告されたに過ぎなかった。最近の3件では主要エンドポイントが満たされていなかった。代理エンドポイントについては、無病生存期間(DFS)は大腸がん患者のOSの信頼できる予測因子とされるが、進行性胃癌の無増悪生存率(PFS)や奏効率などは臨床的ベネフィットと関連性が低いとされている。

 さらに、5件の確認試験が遅れ、10件が保留中、9件が進行中だった。

 確認試験で承認前試験と同じ代理エンドポイントを使用したり、別の代理エンドポイントを使用したりするには、その代理エンドポントが有効な代理エンドポントであると検証される必要がある。また、確認試験の遅れへの対応として、迅速承認する際にすでに確認試験が開始されていることを条件とする必要がある。

<JAMA online2019年7月1日>

 新薬を早く市場に出せという圧力とそれらの有効性安全性検証の必要性との間で、FDAは進退窮まっている。代理エンドポイントへの依存は患者と社会にとって実際のコストがかかり、有効性が証明されていない薬物は絶望的な患者に虚偽の希望を与える。確認試験のエンドポイントは元の研究で使用された代理エンドポイントと同じであってはならず、新しい代理エンドポイントはそのエンドポイントとOSまたはQOLの改善との間に実証済みの相関関係がある場合にのみ使用すべきである。確認試験では、OSおよび/またはQOLをエンドポイントとして使用すべきである。確認試験で重大な毒性作用が報告された場合、または有意な臨床的改善が報告されなかった場合、薬物の承認は迅速に取り消されるべきである。確認試験は速やかに実施すべきであり、4年以上不完全である場合は承認を取り消す必要がある。そしてBoeing 737 Max 8 の安全性確保の失敗から米国連邦航空局が監視と安全性評価について再考したように、FDAも迅速承認について厳格さを持って臨み、FDAの船の方向を正しい方向に向ける必要があるのでないか。

---------------------------
                                  
 近年、免疫チェックポイント阻害剤の登場など治療方法は大きく進歩しているものの、がんは依然として難治性の疾患であると言えよう。それだからこそ、がん患者、家族は画期的な新薬に期待し、新薬の承認の遅延は致命的であると信じている。そのため、欧米各国や日本の規制当局は早期承認制度でOSやQOLの改善が十分に検証されていないがん新薬を迅速承認している。しかし、これでは、まさにこの論文の著者が言うように「絶望的な患者に虚偽の希望を与える」ことになってしまうのではないだろうか。しかも、多くのがん新薬の価格は高額であるため、患者・家族および医療財政に対する大きな負担ともなっている。(G.M)

                                       

※1
Assessment of the clinical benefit of cancer drugs receiving accelerated approval
JAMA Internal Medicine (05/28/19) Gyawali, Bishal; Hey, Spencer Phillips; Kesselheim, Aaron S.; et al.

※2
Accelerated Approval of Cancer Drugs-Righting the Ship of the US Food and Drug Administration
JAMA Intern Med. 2019;179(7):922-923. doi:10.1001/jamainternmed.2019.0584

関連資料・リンク等