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外部試験対照群やリアルワールドデータをランダム化試験の対照群に替えられるかはまだ先のこと(米国臨床研究関係者フォーラム)

2019-04-25

(キーワード: 比較臨床試験の方向性、米国FOCR2018、抗がん剤臨床開発)

 医薬品は比較対照群を置いたランダム化比較臨床試験 (RCT)で有効性・安全性を検証(証明)して承認するのがゴールデンスタンダードである。しかし RCTは手間と費用がかかる。そのためRCTを行わずに、外部試験やリアルワールドデータ(実地診療データ)から合成した対照群を作成し、それらと比較することによって、実薬単独群の臨床成績のみで承認ができないかに関心がもたれている。
米国では抗がん剤の臨床開発についてFDA、アカデミア(学界)、製薬企業、患者コミュニティなどの関係者が一堂に会して議論する場として、Friends of Cancer Research (FOCR: がん研究の盟友の意味)年次フォーラムがある。2018年11月13日ワシントン特別区で開催された年次フォーラム(※1)で、「画期的治療を対象としたランダム化検証試験をこれまで行われた臨床試験データを利用して強化」をテーマにパネルディスカッションが行われた。ピンクシート誌2019年1月2日号が、「外部試験対照群: 実薬単独投与の研究よりも良いがランダム化に替わるものではない」の記事を掲載しているので要旨を紹介する。
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 フォーラムでは合成対象群を用いてうまくいった血液学腫瘍学分野での2つの実例が発表された。合成対照群とは、最近に行われたランダム化比較臨床試験(RCT)の患者から、実薬が投与された患者と基礎的な特徴と予後因子が似た患者を「傾向スコアマッチング」と呼ばれる方法で選んで作られる。
FDA生物統計分野ディレクターのRajeshwari Sridhara氏は「これまで行われた臨床試験データから導いた合成対照群は、実薬単独投与群のみの場合よりも確かにすぐれている。しかし、この手法はRCTが可能な場合にはそれに替わる存在と見なすべきでない」と述べた。

 FDAの血液学腫瘍学分野医学審査官のJoohoee Sul氏は「期待を抱かせる結果ではあるが、血液学腫瘍学以外の広い分野でさらに検証が必要だ」と述べた。

 フロアーから発言したOncology Center of Excellence (FDAの腫瘍学血液学分野の医薬品開発推進を援助する中枢部門) のRichard Pazdur 氏は「この手法は特定の環境下では適当かもしれないが、わたしはRCTの消滅を取り仕切る気はない。RCTをやりたくないと言う前に、統計学コミュニティで十分議論すべきだ」と述べた。

 FDAでは、外部試験における対照群の他に、リアルワールドデータ(実地診療データ)をRCTの対照群とみなして用いることができないかの検討も開始している (2018年12月6日に刊行したリアルワールドデータについてのガイダンス)(※2)。
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 関係者が一堂に会したFOCRで論議されているのは、RCTを無くせるかといったことでなく、外部試験での対照群を規模の小さなRCTを補強するのに使いたいが、そのことが伝統のRCTと比較してどうなのかの議論である。このように米国では外部試験対照群やリアルワールドデータの医薬品承認への利用については、論議がされ始めた段階である。

 ところが日本では、世界ではじめて医薬品承認の要件である有効性安全性の検証(証明)が,介入的検証試験でなくリアルワールドデータ(観察研究データ)でよしとする「条件付き早期承認制度」が、国会で審議されることなく、国民に知られないままに2017年10月に課長通知で即日実施された。そして、制度の恒常化を求める製薬企業の強い要望を受けて「法制化」がめざされており、2019年3月の通常国会に薬機法改正が提出された。なお、臨床試験を行って有効性・安全性を調べる研究が「介入」研究、これに対し臨床試験を行わずに観察データを用いる研究が「観察」研究である。さらには引き続き早期承認対象薬剤だけでなくすべての医薬品承認で介入的検証試験 (RCT)なしでもよいとする方向がめざされている。

 これらは厚生労働省の「医薬品産業強化総合戦略」がかかげる「薬事規制改革等を通じたコスト削減と効率性向上」の方針のもとで進められている。国民の健康を危うくする強引な規制緩和の監視を強める必要がある。(T)