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ジクロフェナク(ボルタレン)は心血管リスクが他のNSAIDsと比較して高い

2018-11-05

(キーワード:ジクロフェナク、NSAIDs、心血管リスク、人口ベースコホート研究、ITT解析)

 デンマークの全国レジストリーデータを用いた一連のコホート研究である。1996年から2016年までに初めてジクロフェナク(商品名ボルタレン等)を処方された140万人について、イブプロフェン、ナプロキセン、パラセタモール(日本名アセトアミノフェン)の使用者および鎮痛消炎剤(以下NSAIDs)を使用しない例(非使用)と比較した研究結果が発表された(※1)。ジクロフェナクはいずれのグループよりも高い心血管リスクがあることを示した。著者たちはジクロフェナクのこの情報の周知を訴えている。以下にその要約を紹介する。
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 デンマークの全国ヘルスレジストリーデータを用いた、全人口を対象とした研究である。1996年1月から2016年までの各月に登録したデータを1つのコホート研究とし、計252のコホート研究としたものだ。悪性腫瘍、統合失調症・うつ病などの精神疾患、心血管疾患、腎疾患、肝疾患、消化性潰瘍などのある人を除き、ジクロフェナク13,708,322人、イブプロフェン3,878,454人、ナプロキセン291,490人が登録された。アセトアミノフェン764,781人とNSAIDsを使用しない患者1,303,209人は基礎疾患などの背景を揃えた患者が登録された。それぞれの処方開始から30日以内に起こった心血管系の有害事象について、その発生率を比較した。登録した人すべてを解析の対象とするITT解析(治療意図の原理による解析)を行っている。

 ジクロフェナクの心血管リスクは非使用の1.5倍(95%信頼区間1.4−1.7)、アセトアミノフェン、イブプロフェンの1.2倍(95%信頼区間1.1−1.3)、ナプロキセンの1.3倍(95%信頼区間1.1−1.5)であった。これは低用量でも同様の結果であった。また症状別の発生率は、非使用と比べて心房細動・心房粗動が1.2倍(95%信頼区間1.1-1.4)、虚血性発作1.6倍(95%信頼区間1.3-2.0)、心不全1.7倍(95%信頼区間1.4-2.0)、心筋梗塞1.9倍(95%信頼区間1.6-2.2)、心臓死1.7倍(95%信頼区間1.4-2.1)であった。他のNSAIDsとの比較でも、アセトアミノフェンの心臓死、ナプロキセンの虚血性発作と心臓死を除いて高かった。相対リスクが最も高かったのは、糖尿病のような低〜中リスクの基礎疾患のある患者においてであり、絶対リスクで高かったのは心筋梗塞や心不全の既往のある高リスク患者においてであった。

 ジクロフェナクはまた30日以内の上部消化管出血を増加させた。これはナプロキセンに匹敵するが、非使用の4−5倍、イブプロフェン、アセトアミノフェンの2.5倍であった。
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 ジクロフェナクは、低用量〜高用量で最も一般的に使われているNSAIDsである。2004年にシクロオキシナーゼ(COX)-2の選択的阻害薬であるロフェコキシブが心血管系副作用のため販売中止となり、以降他のNSAIDsについても心血管リスクについて研究されてきた。なかでもジクロフェナクは比較的COX-2阻害作用が強いことから、心血管リスクが高いことが指摘されている。メタ解析でNSAIDsやよびプラシーボとの比較で高かったとする報告(※2)や心筋梗塞の既往者で再発または死亡リスクが最も高かったとするコホート研究(※3)などがある。しかしこれらの情報は国内ではあまり知られていない。

 本研究は、人口ベースのコホート研究で開始30日以内のイベントを主要アウトカムとしたものだ。他の報告と同様、ナプロキセン、イブプロフェン、アセトアミノフェン、非使用との比較で、低用量、短期間でも発生リスクが高いという結果だった。一方で心血管リスクは遺伝性のリスクであるとの指摘もある。リウマチなどの慢性炎症性疾患では欠かせない薬剤でもあるが、必要最小限、可能な限り短期の使用にとどめるのが望ましいだろう。(N)