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日本のアルツハイマー病治療ガイドラインでの薬物治療の強い推奨は根拠に欠ける

2018-07-23

(認知症治療薬、認知症治療ガイドライン、レセプト情報データベース、医療技術評価)

 いまや認知症は世界的に大きな社会問題であり、認知症を根治する治療薬が強く求められている。しかし、現在まで承認されている認知症治療薬は認知症の進行抑制という限定的な効果しか認めれていない。効果が限定的でも認知症の疾病としての重みや認知症に関連した社会的問題が大きいことから使用せざるを得ない薬剤であり、過大評価されている可能性もある。医療経済研究機構の奥村康之主任研究員(現・東京都医学総合研究所主任研究員)らは、レセプト情報データベース (NCB)を初めて用い、日本における認知症治療薬の臨床使用実態を明らかにした。※1
 以下に概要を紹介する
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 2015年4月から2016年3月までの認知症治療薬(ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミン)の処方のすべてをNCBで確認し分析した。年間の認知症治療薬の使用率は全住民で1.4%、65歳以上では5.1%であり、85歳以上で17.0%のピークを示した。 85歳以上の患者は、処方された認知症治療薬の総量の46.8%を消費した。また、 85歳以上の住民100人のうち13人が毎日、認知症治療薬の維持投与を受けていた。認知症治療剤の臨床試験は世界的にも85歳以上の高齢者を除外して行われており、これらの高齢者で便益がリスクを上回るかは明らかでなく、英国NICEのガイドラインでは使用するかどうかの選択が医師に残されている。一方、日本のガイドラインでは医師にアルツハイマー病の治療に認知症治療薬の使用を強く推奨している。ガイドラインの推奨事項は認知症治療薬の処方の実践に影響をあたえる可能性がある。著者たちは今回の調査結果から臨床試験で知られたことと診療実態にはギャップがあり、将来85歳以上を対象とした臨床試験データが得られるまでは、ガイドラインの強い推奨を見直す必要があると結論している。
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 認知症治療薬は進行性の疾患であるアルツハイマー型認知症の進行抑制を目的に使用される薬剤である。疾患の改善は期待できない薬剤であるが、「進行抑制」という有効性の評価が難しいため、効果が不十分でも一生使い続ける可能性もある。このため、英国のNICEは、エーザイのアリセプト(ドネペジル)などの認知症治療薬に対し、価格が高いが有効性は限られたものでしかないとして使用を厳しく制限してきた。しかし、日本のガイドラインでは軽度認知症から第一選択としてドネペジルなどのChE阻害薬が推奨されている。認知症の治療は非薬物療法(回想法、音楽療法、運動療法など)を中心に、必要に応じて薬物療法を行うとされているが、特に人的資源が乏しい医療機関では、薬物療法が偏重される傾向が強いのが現実である。一方、フランスでは2018年8月1日から認知症治療薬(ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミン)を公的医療保険の適用対象から外すことが決定された※2。これは、フランスの医療技術評価機構(HAS)が2007年、2011年、2016年とHAS自身によるメタアナリシスを含む3回の再評価を行い、薬剤によってもたらされる治療上の価値はきわめて限定的であり、臨床的有用性が乏しいと判断した結果である。フランスと同じように独立した評価機構が日本にも必要である。 G.M



※1 Int J Geriatr Psychiatry 2018; 1-2.