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抗うつ、抗パーキンソン、泌尿科領域などの抗コリン剤が認知症リスクと強く関連(症例対照研究)

2018-07-23

(キーワード: 抗コリン剤、認知障害、ACBスコアー、コホート内症例対照研究)

 抗コリン剤は頻尿、季節アレルギー、うつなどの症状に対し、高齢者にしばしば処方される薬剤である。アセチルコリンは脳内の覚醒に関係しており、服用中に認知機能低下が起こることがわかっている。長期間の抗コリン剤使用 (曝露) が認知症を発症させないかについても危惧されていた。

 このほど、英国の大規模データベースを用い、患者集団(コホート)内症例対照研究により、抗コリン剤長期使用と認知症発症との関連を調べた論文が、BMJ誌にオープンアクセスで掲載されたので(※1)、要旨を紹介する。
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 抗うつ、抗パーキンソン、泌尿科領域、消化器領域、循環器領域など異なるクラスの抗コリン剤ごとに、曝露の持続(抗コリン剤の使用期間)・レベル(抗コリン剤の使用量)とそれによっておこる認知症との間の関係を推定するために、英国実地臨床研究データベース(CPRD)の患者集団(コホート)内症例対照研究を行った。

 この研究は認知症発症に対するクラスの異なった抗コリン剤の影響を個々に推定する最初のものである。
対象となった患者は、2006年4月から2015年7月の期間に認知症と診断された40770例と、認知症の診断のない対照283933例である。

 抗コリン剤は、抗コリン作用の認知機能への負荷(ネガティブな影響)の強さ (ACBスコアー)で、低い方から1〜4に分類されている。認知症と診断される前の最短4年間、最長20年間における抗コリン剤服用を曝露としてとりあげた。認知症発症に対する調整後のオッズ比を主要アウトカム(評価項目)とした。認知機能に強い影響があると分類されたACBスコアー3の抗コリン剤全体のオッズ比は1.11 (95%信頼区間1.08-1.14)で有意であった。ACBスコアーが大きいと認知症発症が増加した。消化器領域の抗コリン剤はACBスコアー3でも認知症発症と有意に関連しなかったが、スコアー3の抗うつ剤、泌尿器領域薬剤、抗パーキンソン薬剤は曝露期間の増加とともに認知症の発症リスクが増加した。認知症と診断される前15-20年における期間が空いた曝露でも認知症の発症リスクが増加した。
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 抗コリン作用をもつ薬剤は高齢者にしばしば用いられる。この論文とセットで同時掲載された論説によれば、抗コリン剤は高齢者に10-27%の高頻度で用いられている。アセチルコリンは脳内の覚醒にかかわっており、抗コリン剤服用の際には認知機能が低下することが知られている。そして長期間の服用が認知症の発症につながるのでないかと危惧されている。本論文は、この関連について調べるため、英国実地臨床研究データベース (CPRD) を用い、認知症と診断された患者と診断されていない患者での抗コリン剤使用経験について、症例対照研究の手法で比較した。

 疫学的手法で因果関係の検証をするのには困難を伴う。関連があったとしても認知症の初期症状に抗コリン剤が使われた逆の因果関係 (reverse causation)の可能性が存在する。そのため因果関係についての正しい臨床総合判断を助けるために、抗コリン剤のクラス、抗コリン作用の強さ、使用量、曝露時期などについて、詳細な検討ができるよう大規模データベースを用い検討している本論文の意義がある。

 この論文で抗コリン作用と認知症発症の関係が解明されたとはまだ言えないが、因果関係の存在の可能性が強まった。繁用される薬剤であるだけに、著者が記しているように医師は抗コリン剤使用による短期の認知機能の弱化とともに、長期的な使用による認知症発症のリスクがあり得ることに十分な注意を払う必要がある。   (T)

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