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米国で市販後の宿題となった研究がきちんと行われていない

2018-02-22

(キーワード:FDA改革法2007、市販後臨床試験、早期承認制度、医薬品安全性監視)

 条件付き早期承認制度の条件とは、多くの場合市販後臨床試験の実施である。2007年9月にFDA再生法が成立し、メーカーに対して市販後臨床試験など必要な施策を企業に求める権限がFDAに与えられた。市販後調査の完遂、添付文書の改訂、REMS(リスク評価、リスク軽減戦略、レムズと読む)の完遂を行わない企業には重い罰金を課すことができるとされた(※1)。

 FDAの定義によれば「市販後臨床試験」とは割り付けを行う比較臨床試験を、「市販後臨床研究」とはそれを除くすべての研究を言う。これらには強制事項となるもの (Post-marketing requirements: PMR) と企業との合意のもとに行われるもの (Post-marketing commitments: PMC) がある。これらは機能しているのだろうか。ダーツマス保健政策研究所のWoloshinたちは2009-2010年に指定されたPMRおよびPMCについて、2015年9月時点の官報報告を調査した。以下にNEJM 2017年9月21日号の論説、The Fate of FDA Postapproval Studies(FDAの市販後臨床試験の運命)を紹介する。
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 議会とFDAは製薬企業に対して安全性や有効性に関する多くの疑問の解決を市販後まで待つことを可能にすることにより、新薬の承認を加速しようとしている。その結果、ほとんどの承認では長期の安全性や小児適応などの問題に対処するため承認条件として市販後臨床試験(第4相試験)が必要となっている。2007年に成立したFDA改革法により、FDAは市販後臨床試験の遅れに対しては販売承認の取り消す権限が与えられている。また、FDAは市販後臨床試験の進捗状況について年次報告を発行しなければならないとされている。

 2007年に成立したFDA改革法の効果を評価するために、最新の連邦登録局の状況報告書を用いて、2009年と2010年に指定されたPMRおよびPMCについて評価した。

 5-6年後において市販後臨床試験の614件中125件(20%)がスタートすらしていない。156件(25%)が進行中であり、そのうち57件(9%)が遅れている。333件(54%)のみが完了していた。著者たちは完了していない市販後研究について分析した。研究の中にはプロトコールを提出するのに1年以上、完了するまで5年以上かかったものや、4年間の延長期間が認められたものもみられた。中にはプロトコール提出、完了などの計画が全く定められていないものもある。広く処方されている糖尿病薬ビクトーザ(liraglutide)の甲状腺がんリスクのシグナルを調査する市販後臨床試験は、2010年7月にPMRが指定されていたが、7年もたつのにレジストリはおそらく開始されていない。このような遅れや不規則なペースの市販後臨床試験は、迅速承認のための試験とは対照的である。FDAは承認条件である臨床試験の宿題が満たさなかった場合には、承認を取り消すことができるし罰金またはその他の罰則を製薬企業に課すことができるが、このような罰金を課したことはない。

 FDAが早期承認制度を推進し、トランプ大統領がFDAの「ゆっくりとして煩わしい承認プロセス」を迅速化すると述べている中で、医薬品の承認はさらに迅速化され、承認に必要なエビデンスはさらに緩くされようとしている。承認の際答えられていない重要な疑問に対しては、可及的すみやかに解決することが急務である。
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 FDA改革法は、ユーザーフィー法に基く新薬の早期承認などでバイオックス薬害などの問題が多発し、「FDAは国民よりも製薬企業の方を向いて仕事をしている」との批判が高まったのを受け2007年9月に成立した。(※1)FDA改革法は新薬の早期承認と安全性の確保を両立させることを目的としていた。早期承認制度の基本は代替エンドポイントで承認するかわりに、真のエンドポイントを市販後臨床試験で確認するものだが、臨床試験全般に対するFDAの権限を強化することで、FDAの医薬品安全監視が強化されることが期待された。しかし、新薬の早期承認の条件である「FDAの市販後臨床試験の運命」は上記のとおりである。審査費用の大半を製薬企業から調達するユーザーフィー法の構造を改革せずむしろ、製薬企業からの資金を増加させたための結果とも言える。日本でも「条件付き早期承認制度」が2017年10月に導入されたが、早期承認の条件である市販後臨床試験のかわりに、リアルワールドデータの活用が認められ、さらに、条件が満たされているかどうかの確認は再審査時(8年後)で良いとされている。リアルワールドデータの活用は世界初かもしれず、日本はこのままでは、世界で最も早く危険な新薬が承認される国になってしまう。(G.M)