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企業の支払い情報公開(サンシャイン法)は医師だけでなく患者団体についても必要

2017-07-18

(キーワード: 患者団体、企業の影響、支払い情報公開(サンシャイン)、利益相反)

 患者団体の主要な使命は困難な疾患と闘う患者の結束を強め福祉の改善を図ることにある。製薬企業などの患者団体への支援は、利益の社会還元の意味合いがあるが、医療政策や新薬開発に対する企業の代弁者としての役割を期待することもしばしばあり、利益相反の情報公開・管理が重要である。

 注目情報では2015年2月に「患者団体は資金援助先についてもっと情報公開すべきでないか(BMJ誌)」(※1)で英国での状況を伝えた。2017年3月、米国のNEJM誌が「特別レポート・患者団体に対する利益相反」の記事(NEJM 376: 880-5)を掲載し、より深刻な米国の状況を伝えているので紹介する。
筆頭著者はペンシルベニア大学の McCoy MS氏で、医療倫理で著名な Emanuel EJ氏も名を連ねている。
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 米国における年間収支が750万ドル以上(8億円余)の、104の大きな患者団体について調査した。83%の患者団体が製薬企業、医療機器企業、バイオテクノロジー企業から財政援助を受けていた。39%の患者団体はそれらの企業の現在または前幹部を患者団体の理事会(governing board)メンバーとなってしていた。少なくとも12%の患者団体ではこれらの人物は理事会の指導的地位にいることがわかった。

 患者団体に対する企業の財政的支援は相当な金額で、少なくとも39%の患者団体が年間100万ドル(
1億円余)以上の支援を受けていた。企業の支持を受けていないと明示しているのは104の患者団体のうち1つだけであった。

 患者団体の88%は年次報告書あるいはウェブサイトで支援企業を公表していたが、支援に関する全容を明らかにしている患者団体はほとんどなかった。支援を受けた金銭がどのように使われているかを明らかにしている患者団体は10%に過ぎなかった。企業との間の利益相反をどのように管理するかの政策を明らかにした患者団体も12%にとどまっている。

 われわれは、次の4つのポイントを強調したい。
1) 患者団体に対する企業の財政的支援は広く行われており、少なくとも83%の患者団体が支援を受けていた(なお、医師は41%が企業から支払いを受けている)。それも相当な金額の支援で、少なくとも39%の患者団体が少なくとも年間100万ドル(1億円余)以上の支援を受けていた。
2) 支援は主として財政的なものであったが、利益相反はさらに患者団体の理事会メンバーと指導的地位のメンバーに及んでいる。
3) 患者団体に対する企業支援の全容はほとんど情報公開されていない。
4) 企業との利益相反をどのように管理するかの政策を公表している患者団体もわずかである。
 
 今回の調査の限界として、企業が直接患者団体に財政支援するのでなく、影響下にある他の企業などを介してわかりにくくしている場合捕捉できていなく、さらに広範に行われている可能性がある。

 患者団体に対する財政支援の情報公開がなされれば、市民、研究者、規制官庁はあり得る利益相反の程度を推し量ることができる。サンシャイン法に基づく企業の支払い情報公開は、医師のみでなく患者団体についても必要である。
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 日本においては、国際的な情報公開の方向性を受けて日本製薬工業協会 (製薬協: JPMA) が2012年3月「企業活動と患者団体の関係の透明性ガイドライン」(※2)を制定したが、自主的な行動基準であり、患者団体に対する企業の財政的支援などについてはその実態が明らかでない。

 医療政策への患者代表の関与や、希少疾患治療剤の開発などで患者の果たす役割がさらに強まるなかで、患者団体と企業との利益相反の透明化・管理が求められており、今回のNEJM誌特別レポート記事は参考となる。 (T)