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医薬品有害事象による救急受診・入院を減らすために、外来処方を見直す取り組みが必要

2017-04-17

(キーワード:医薬品有害事象 救急診療 外来医療システム 多剤処方)
 
 米国での外来患者の医薬品有害事象による救急受診に関する2013〜2014年の研究結果がJAMAに報告された(※1)。その調査結果は、処方薬による健康被害が予想以上に拡大していることを示唆していた。

 この研究報告をJAMA論説2016年11月22/29日号が取り上げ(※2)、特に慢性疾患において、複数の医師から複雑な治療が不十分な管理のもとで行われており、米国のヘルスケアシステム全体の変換と薬剤師の関与が必要であると指摘する。日本でも高齢者の多剤処方が問題になっているが、そのリスクと改善策を示唆する内容であり、要旨を紹介する。
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 この研究は、外来患者のための処方安全プログラムを進めるため、米国障害監視システム−共同薬物有害事象監視(NEISS-CADES)プロジェクトに参加している58の救急診療部を受診した患者データを調査し、2013〜2014年における42,585例の医薬品有害事象による救急受診事例を分析したものである。

 救急受診者1000人当たり4人(95%信頼区間3.1-5.0人)が医薬品有害事象による受診であり、その27.3%が入院していた。医薬品有害事象による救急受診者の34.5%は65歳以上の高齢者であり、そのうち入院に至った患者は43.6%を占めた。成人の代表的な原因薬剤は抗凝固剤、糖尿病治療剤、オピオイド系鎮痛剤であり、小児では抗生物質、次いで精神神経系薬剤であった。この調査結果から、米国の2013〜2014年における医薬品有害事象による救急受診者は130万人で、2005〜2006年の調査に比べ10%増加したと予測されることを明らかにした。

 米国民の10%以上(救急受診比率と偶然にも同じ比率)が5種類以上の薬を処方され、その半数は正確に服用できていない。医師は少なくとも処方薬が有害事象を起こし得ることに配慮し、有害事象が発生した場合は、それらを特定し、対処することに努力すべきである。

 処方薬による有害事象を防止するためには、特に慢性疾患においては、処方の体系的な再考と、再設計を必要とする。しかし、複数の臨床医が関わりながら、それらが分断されている外来医療システムでは、臨床医がたとえその患者に精通していたとしても、合併症の処方を調整することは難しい。

 外来患者における、医薬品有害事象の増加に対処するためには、患者ごとに、一人の臨床医、あるいは一つの中心グループにその患者の処方に責任を持つ役割を与え、容易で効果的なコミュニケーションの仕組みを確立するよう、統合された外来医療システムへの変換が必要である。有効な手段は、外来医療の統合に薬剤師が関与し、処方管理を実践すること等である。

 また、救急診療部での医薬品有害事象事例への対処として、適切で安全な処方管理を行うためには、薬の正確なデータ、処方薬のリスク・ベネフィットに関する患者とのコミュニケーション、必要性の再評価、患者の外来診療や専門診療チームへの伝達などを短時間の診療時に完了させなければならない。そのためには、救急診療部所属の薬剤師の関与が解決策となる。

 医療のより安全なモデルとして、プライマリーケア、専門医療、薬局、救急診療と他の医療専門職とが連携したシステムが必要である。この研究結果は、より組織的、体系的方法によって、医薬品による有害事象防止という重要な臨床課題に対処することの必要性を示唆している。
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 日本では、救急受診や救急入院と医薬品有害事象の関連性に関して、実態が明らかになっていない。しかし、医薬品有害事象による救急受診や入院が予想以上に拡大しているとする米国の調査結果は日本にも共通すると考える必要がある。
日本においては、超高齢社会への対応として、政策的には地域包括ケアシステムの構築が推進されているが、薬局、薬剤師の参加は一部にとどまっているのではないだろうか。薬剤師の、高齢者の安全性確保に対する問題意識を高め、複数の処方医による多剤処方の管理に実際的な役割を果たすことが求められている。(N.M.)