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希少疾患治療剤(オーファンドラッグ)の承認をめぐりFDAに大きな亀裂

2017-04-17

(キーワード: オーファンドラッグの承認、患者アクセスとエビデンスの相反、米国FDA、部局内で不一致)

 希少疾患治療剤(オーファンドラッグ)は、患者数が少ないが命にかかわる重篤な疾患の治療剤である。採算がとれないことから、開発企業に対して優遇策がとられている。1983年に米国でオーファンドラッグ法が成立、日本(1993年)、EU(2000年)もこれに続いた。税の面での優遇と独占販売期間などがインセンティブ(開発推進の誘因)の主な内容である。最近ではオーファンドラッグ指定申請・販売承認、高額薬剤の急速な増加で優遇策の見直しもいわれている。患者の絶対数が少ないため、承認に必要なエビデンス(科学的証拠)についてなど問題の多い分野である。

 JAMA誌2016年12月13日号が、ハーバード大学のKesselheim AS氏とAvorn J氏による「問題の多いある筋ジストロフィー(形成異常症)治療剤の承認 -FDAポリシーに対して持つ意味」の論説を掲載しているので、要旨を紹介する。
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 2016年9月、FDAはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の新薬 エテプリルセン(Exondys51)を承認した。DMDは筋形質膜に存在するジストロフィンの欠如による男児の致死性疾患で治療剤が存在しない。遺伝子治療で治癒することが期待されている疾患である。米国には推定2000-2500名のDMD患者がいる。エテプリルセン(Exondys51)はDMD患者の10-15%が有する exon51を標的とする薬剤で、革新的なメカニズム(作用機作)の新薬だが、これまで期待したような明快な臨床効果が得られていない。

 企業はpivotal study(申請の根拠となる主要臨床試験)として、合計12症例の比較対照試験を行った。8例は2用量のエテプリルセン、4例がプラセボ(擬薬)の割り付けである。24週後にはプラセボ群の患者にもエテプリルセンが投与され、試験はさらに24週間継続された。なお、同様のDMD治療剤 drisapersen は290症例で3つのランダム化比較対照試験を行っている。FDAは2015年にdrisapersenが6分間歩行テストなどで明快な便益を示さなかったことや安全性などで承認を拒否している。

 エテプリルセンでは、これと対照的に非臨床の代替エンドポイント(効果をみる指標)が用いられた。筋バイオプシー(生検)標本でのジストロフィン量である。バイオプシーが実施されたのは半数の症例だけだったが、ジストロフィンは正常の半量にまで増加すると2013年に報告された。この結果はDMD患者コミュニティに熱狂をもたらした。しかし測定法に問題があり、実際には正常の0.9%程度の増加であった。FDAの指示でやり直した試験の結果も思わしいものでなく、同時に実施された臨床の6分歩行テストの結果もプラセボと変わらなかった。しかし速やかに悪化した2例を除くと歩行時間が統計的に有意な増加となるという事後解析がジャーナルに掲載され、製薬企業は試験が成功したとアナウンスした。

 FDAはこれらのデータをレビュー(吟味)するために2016年4月に諮問委員会を開催した。ヒアリング(公聴会)には1000名以上の参加者があり、患者などからのコメントは4時間以上にわたった。発言のあった52人のうち51人はエテプリルセンの承認に賛成であった。諮問委員会のエテプリルセン承認可否についての採決は、反対7、賛成3、棄権3であった。そのあとFDAは決定を延ばし追加データを求めた。その内容は他の進行中の試験での48週の時点における13患者でのバイオプシーデータである。結果はジストロフィンの正常に対する0.2-0.3%の増加であった。

 2016年9月には、他の理由での承認の遅れが明らかになった。それは承認決定に対するFDA内部の不一致であり、FDAの審査スタッフは全員が承認に反対を表明した。しかし、審査部門長のウッドコック氏はそれらを抑え、ジストロフィン量の極端に小さな増加でも臨床的な効果に結びつき得ると示唆した。氏は命を脅かし代替薬のない疾患では、FDAは可能な最大限の配慮をすべきとした。審査スタッフたちは、これに対し尋常でない手段をとり、カリフFDA長官に直訴したが、長官はウッドコック氏の決定を支持した。

 このようにエテプリルセンは諮問委員会と審査スタッフたちの反対を押し切って承認された。
FDAは企業に2021年5月を期限としてランダム化比較試験を行いその結果を報告するよう求めた。しかしプラセボ対照群は求められていず、効果がどのように評価されるかも明らかでない。企業は承認後ただちにエテプリルセンの薬価は年間で30万ドル(約3500万円)になるとアナウンスした。公的および民間の医療保険支払者にはこれらを負担するよう患者やマスメディアから圧力がかかっている。

 エテプリルセンは次世代の分子標的薬承認に対し厄介なモデルを提供した。 実験室テストでのわずかな差異を示し、患者コミュニティを勢いづけ、承認を獲得して高薬価になった。一方規制庁の市販後試験などのフォローアップ(追跡調査などの結果を見届けること)は、頼りにならない状況である。
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 オーファンドラッグの問題は、患者アクセス、承認に必要なエビデンス、高薬価など難しい問題であることは確かだが、患者とマスメディアの圧力のもとで、諮問委員会、審査スタッフが反対する中で承認が急がれるのも明らかに異常である。医薬品の有効性・安全性などは患者自身に戻って来る事項だけに、ここは患者・メディアの慎重な行動を望みたい。

 なお、米国は、日本と比べると医薬品承認プロセスの情報公開が進んだ国である。注目される薬剤は承認前に臨床試験など開発データを公開し、公聴会を開催、諮問委員会における承認などの評決結果は諮問委員名も含め公表される。日本でこれに若干類したプロセスがとられたのは、過去に薬害を引き起こした多発性骨髄腫治療剤サリドマイドと緊急避妊剤レボノルゲストレルのわずか2剤しかない。(T)

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