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ジャーナルに掲載されない真実 〜臨床試験不正〜

2017-04-17

【キーワード】FDA、臨床試験、不正

 FDAの規制委員会は医薬品などを申請した企業に対して、臨床試験が適正に行われているか、患者の安全、権利が守られているか、結果の隠蔽や捏造などが行われていないかなど査察を行い、制裁措置対象(OAI-Official Action Indicated)とした場合、企業に修正を要求するなどの制裁を課し、是正が不十分であった場合など、その試験などは承認申請資料から除外される。2013年には実施された査察644件のうち2%に制裁措置がとられたが、出版されるジャーナルはその制裁措置の内容を考慮したものとなっているだろうか。制裁措置とされたことさえ記載されてないのではないか。

 今回、FDAの査察や制裁内容、不正行為がきちんとジャーナルに反映されているかについて調査した、アメリカの医療ジャーナリストCharles Seifeの文献(※1)を紹介する。

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 1998〜2013年にFDAから制裁措置が妥当とされ、OAIと判断されたもののうちジャーナルに出版されていた57試験について分析している。

 違反の内容は、結果偽造、または情報を出さなかった-22件(39%)、有害事象を報告しなかった-14件(25%)、プロトコール違反が認められた-42件(74%)、患者の安全、権利、健康が守られなかったもの-30件(53%)があった。そして、57試験、78論文がジャーナル化されたが、不正について言及した論文物はたった3件(4%)だった。

 ジャーナルに掲載されなかった、制裁措置が執られた不都合な事実についていくつか紹介する。

◆CASE1:重傷四肢虚血における幹細胞を使用した再生医療で、幹細胞を使わなかった群では改善は認められなかったが、使用群では特に下肢の改善が認められたと、その有用性だけを報告しているが、使用群で治療2週間後に下肢切断をした患者について制裁措置を受けていたにも関わらず、そのことは出版されたジャーナルには一切触れられていなかった。

◆CASE2:rivaroxaban〈新規抗凝固剤〉16臨床試験の内8試験が、カルテの破棄、データの紛失、偽造、不適切なランダム化など様々な違反についてOAIの制裁を受けており、これらの不正から、リバーロキサバン(イグザレルト)の整形外科領域における術後深部静脈血栓と肺梗塞への効果について試験したRECORD 4の結果をFDAは信頼できないとしている。しかし、この試験の記事、またはトライアルと関連した出版物においてこれらの問題は言及されてない。

◆CASE3:がんの化学療法治験(2つのレジメン比較臨床試験)で、死に至った患者の腎、肝障害のデータが隠蔽され、データ改竄されたことについて制裁措置がられた。しかも、この研究者は当該罪で禁固71ヶ月の実刑判決を受けている。このことはFDAや裁判書の記録には詳述されているが、この試験に関して出版されたものにはその衝撃的な事実については何も記述されていない。

◆CASE4:apixaban〈新規抗凝固剤〉
アピキサバン(エリキュース)の臨床試験の中でも大規模な試験である中国サイトで、患者データの明らかな改竄があった。もし、その患者の元データを含んでいれば、アピキサバンの統計学的に有意な生存率の根拠が無くなる。このことから、FDAは他の試験についても申請者の主張する有意な生存率の根拠が適切なものかどうかについて洗い直した。しかしこの議論は出版された論文などに記録が残されていない。2011年以降の有意な生存率と主張した出版文献はOAIに抵触した違反データを含めたものであり、その出版物はFDAが違反を明らかにした後も18ヶ月間発刊されたままだった。

 ジャーナル化においてFDAによる臨床試験の査察の結果の透明化が求められている。提出された元々の調査結果および査察内容を載せること、信頼性のある出版データを活用できるように要求すべきである。
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 多くの病院でcase2とcase4の新規抗凝固剤について調査したはずである。しかし、このような査察内容まで加味して評価したであろうか。制裁措置が執られたにも関わらず、あたかもそんなこと無かったかのようにして薬がデビューされていることは、薬の有効性、安全性の評価に大きな影響を与える。薬の有効性安全性を正しく伝えるのは開発者の重要な責任である。全てのジャーナルにおいてもこのような重要事項は掲載されるべきであり、必ず注目できるように記述すべきである。(N.A.)