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害作用による販売中止に遅れー因果関係を調べる本格的研究のすみやかな着手が核心

2016-09-01

キーワード: 害作用、販売中止、系統的レビュー、薬剤疫学研究、一時販売停止、販売制限

 英国オックスフォード大学EBM(根拠に基づく医療)センターの Jeffrey K Aronsonたちは、疑われる害作用が原因で販売中止になった医薬品について、その経過やとられた措置について系統的レビューを行い、それらのあるべき姿について提言している。

 著者たちは、害作用による販売中止の遅れが著しく、多くの避けられた死亡や健康被害をもたらしていることを述べ、症例報告などから重篤な害作用が疑われる際には、直ちに因果関係を調べる本格的研究(formal studies、薬剤疫学研究など)に着手することが核心であり、その際害作用の重大性に応じて一時的販売中止(temporary suspensions)や販売制限の措置がとられる必要があることなどを強調している。

 以下は、BMC Medicine(2016年2月4日)に掲載された論文(※1)の要旨である。
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 世界で販売中止になった医薬品医療機器についての長期間にわたる包括的・系統的レビューの研究はこれまでなかった。
われわれは、これまで報告されていないアフリカ諸国のデータも含め、1953年から2013年の間に販売中止になった462の医薬品医療機器について、
1) 中止の判断をしたエビデンスのレベル、
2) 時期経過がどう影響しているか、
3) 国々により異なる中止のパターン などを調べた。
エビデンスのレベルについてはオックスフォードEBMセンターの基準(※2)を用いた。

 販売中止になった原因は、肝毒性が最も多く、循環器毒性、発がん性などが続いた。 
販売中止になったもののうち、72%は販売中止の判断のもととなったエビデンスのレベルが、症例報告などによっており、高いとは言えなかった。
害作用がはじめて報告されてから販売中止されるまでの期間は6年であった(四分位範囲IQRすなわち大きさの順に並べて25-75%の範囲の境界値は1-15年であった)。中止までの期間が順次短くなっているとは言いがたく、中止まで長い期間を要している。
販売中止となった462の医薬品医療機器のうち43(9.34%)のみが世界的、すなわち販売国すべてで中止になっていた。
179(39%)は1国のみで中止になっており、残りの240(52%)は2か国ないしそれ以上の国で中止になっていた。アフリカは中止が少なかった。
 
中止の判断のもとになったエビデンスのレベルが低いことが、一部の国での販売中止にとどまり、また論議が続き販売中止に至らない原因であると考えられた。

 有害事象が報告されないことも顕著であった。
医師などが害作用を報告していない。とりわけ死亡例についての報告がされない。これには、因果関係がないないしは不確かとの判断、利益相反、多忙、知識の不足など多くのものが関係するが、報告がなければ販売中止の判断の遅れをもたらす。
また、報告された有害事象が多くの人の眼にふれる情報に掲載される仕組みができていない。

 医薬品規制庁の協同が一層進み、疑わしい害作用の報告における透明性を高めることが、現在の意思決定プロセスの改善に繋がるだろう。

 われわれの推奨は次のとおりである。
1) 重篤な害作用が疑われた時に、どの時点で販売中止されるべきかを決定する国際的なガイドラインが
  必要である。

2) 発展途上国、とりわけアフリカの医薬品監視システムを強化させる努力が必要である。2018年にアフリカ医薬品庁の設立をめざすアフリカ連合諸国と協同した世界保健機関(WHO)の提案は歓迎される。

3) 害作用が疑われる際に規制庁と製薬企業は行動を急ぐべきだ。因果関係を調べる本式の研究(formal studies-引用者注、コホート研究や症例対照研究などの薬剤疫学研究など)がただちに行われるべきだ。その際必要なら一時的販売中止(temporary suspensions)や販売制限の措置が考慮される。

4) 臨床試験で観察された有害事象報告での透明性を高める必要がある。臨床研究報告へのアクセスは将来の医薬品規制にとって最優先されるべきである。

5) 疑わしい害作用の報告における医療専門家と患者のより積極的な関与が奨励されるべきである。
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 著者たちは、疑わしい害作用についての症例報告は早期の注意喚起として価値があるが、規制庁と製薬企業は行動を急ぎ、ただちに因果関係決定のためのエビデンスの高い研究に着手するべきである、そのために必要なら一時的販売中止や販売制限の措置が取られる必要があると、強調している。日本ではとりわけ薬剤疫学的研究(例えばコホート研究、症例対照研究)などの体制の遅れが顕著であり、一時的販売中止の措置がとられることもない。著者たちの提言に傾聴すべきものが多くあると考える。

なお、因果関係解明のための薬剤疫学的研究は公平な立場で科学的に行われるべきであるが、日本ではたとえ行われても害作用を否定したいという利益相反が入り込み、きちんとした研究として報告されることが残念ながらほとんどないことも、克服すべき問題点として書き加えておきたい。(T)