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被験者に対する重大な害作用の情報開示が63%でなされていなかった(米国)

2016-01-12

 (キーワード: インフォームドコンセント、害作用情報開示、黒枠警告、被験者保護、研究審査委員会IRB)

 被験者保護、とりわけ害を受けやすい被験者を重大な害作用から保護するために、試験内容やインフォームドコンセント内容を審査するIRB(審査委員会)の果たす役割は重要である。しかし、その役割は効果的に果たされているのであろうか。

 インフォームドコンセントやIRBなど被験者保護の取り組みが進んでいるとされる米国での問題点を、JAMA内科学誌2015年9月号が伝えている。著者たちや編集者はこのような現実の改善は急務であると訴えている。

 以下は要旨である。
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 ヒトを対象とした医学実験である臨床試験は、医薬品規制庁であるFDAによってすでに販売承認された医薬品を用いる臨床試験を含んでいる。FDAによって承認された医薬品の約35%は、添付文書に黒枠警告を掲載している。黒枠警告は、潜在的リスクが医薬品のもたらす便益の程度に比べて非常に重篤であることを示している。インフォームドコンセントに際しては患者にそうしたリスクを伝えねばならない。われわれはインフォームドコンセントフォームで黒枠警告リスクの情報開示がなされているかを調査した。

 われわれは1つの大学病院(引用者注: 著者たちが所属し、この調査についてのIRBの承認も得ているシカゴのノースウェスタン大学の病院)で2010年1月1日から2012年12月31日までの2年間にIRBの承認を得た4780の臨床試験プロトコールについて、IRB記録データベースで調査し、当時の添付文書と照合した。その4780のプロトコールのうち57プロトコール(1.2%)の被験医薬品に開示されるべき黒枠警告があった。57プロトコールのうち43プロトコール(75%)は命を脅かす疾患の被験者を含んでいた。しかし57プロトコールのインフォームドコンセントフォームのうち36(63%)は黒枠警告リスクを開示していなかった。

 臨床試験を企画依頼するスポンサーと実施する研究者には利益相反が存在する。臨床試験は収入の増加や名声の増進を生じ得る。さらに、研究者は、しばしば被験者である患者を日常的に診療する医師である。適切なインフォームドコンセントは、臨床試験に参加する害を受けやすい重篤な患者にとりわけ重要である。

 開示されなかった黒枠警告リスクは、患者がそれを知れば臨床試験に参加しなかったかも知れない。

 今回の被験医薬品に開示されるべき黒枠警告があった57プロトコールのうち36は多施設共同で行われる臨床試験であった。そのうち19(53%)が黒枠警告リスクを開示していない。このことから、黒枠警告リスクの非開示が広く蔓延していることが考えられる。製造企業は、FDAの指示した添付文書の黒枠警告にある重篤あるいは命を脅かすリスクについて、研究者、IRB、被験者に対してタイムリーかつ正確に伝える必要性がある。コンセントフォーム、プロトコール、研究者用冊子、製薬企業の完全な処方インフォメーションなどの書類のセミオートマティックな分析が、被験者へのリスクの開示を確実にすることに役立つだろう。
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 開示すべき黒枠警告リスクを開示しないインフォームドコンセントフォームが63%に存在し、これらを審査したIRBがチェックできていないという今回の報告は、患者保護システムが先進的に進んだとされる米国の報告であるだけに、衝撃的である。数は多いが質が悪いことが問題となっている日本のIRBでは状況はさらに悪いのではないかとも懸念される。

 被験者保護とデータの科学性担保はIRBの2つの大きな役割である。IRBの質の改善とともに、致死的であったり、命を脅かしたり、永久的な身体障害をもたらす害作用について被験者への情報開示を義務付けるシステムの構築が必要であると思われた。     (T)

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