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創立20周年のコクラン共同計画 ―― 多くのことが達成されたが、残された課題も多い――

2015-09-28

コクラン共同計画が目指したことは、ヘルスケアの効果を科学的に検証するためのデータベース作りであり、その成果を電子化したものがコクラン・ライブラリーである。それは、臨床医ならだれでも一度は利用したことがあるEBM(根拠に基づいた医療)の基本ツールである。その出現によって世界中の医師の思考法が大きく変化し、診療上の意思決定を必要とする場合のゴールド・スタンダードになったと言っても過言ではない。コクラン共同計画が始まって20年が経過し、この間に120カ国、3万1千人の人々がこのプロジェクトに参画し、5000件以上のシステマティック・レビューが発表された。

ここに紹介する記事は、1992〜2004年の間BMJ誌の編集長を務めたRichard Smith氏が、コクラン共同計画創設20年を記念して書き上げた論説である(※1)。
旧い体質の英国医師会雑誌を、今日的な総合医学誌に変身させた人物だけに、コクラン共同計画の成功とその功績は認めつつも、その裏返しとして、同計画がいま抱えている課題や欠点についても厳しい指摘を行っている。以下はその要約である。

(1) 量的および質的な問題点
 コクラン共同計画が答えを用意しているのは、膨大な臨床上の疑問の中のほんの一部に過ぎない。データベース自体が継ぎ接ぎだらけで量的にも質的にも、肝心の疑問に答えられるレビューが少ないことは、この計画が個々人の善意と協力によってもっぱら支えられており、ボトム・アップ型の組織構造をとっているため、的確で迅速な方針をとることができないのが、その理由の一つではないかとこの論説は指摘している。現在、コクランには53のレビュー・グループがあるが、これに参画している人々の多くは無償の協力者であり、委託を受けてきちんとした財源のもとに実行されているレビューはほんの一部に過ぎない。この20年間にコクラン共同計画が得た研究資金は約1億5千万ポンド(それでも莫大な金額である)であり、この間に公表されたレビューの件数から考えると、1件につき3万ポンドに過ぎない。資金不足、マンパワー不足は新たなレビューが増やせないだけでなく、これまでに発表されたレビューの更新という課題にも応えていない理由となっている。現状では、過去2年間に発表されたレビューのうち、更新できているのはわずか3分の1である。新たな治療法・診断法が加わるだけでなく、医学的な知見も日々進歩する中で、数年前に実施されたレビューの多くは時間とともに役に立たないものになってしまう。

(2)組織上の問題点
コクラン共同計画の創始者の一人であるミュア・グレイが、コクランはイェズス会がお手本であると述べたエピソードが紹介されているが、この計画に参加する人々がコクランの使命に情熱を傾け、しばしば自分のプライベートな時間を使って無償で奉仕的に働き、生涯を通じてこの活動に関わるという点が宗教活動に似ているということなのかもしれない。しかし、Richard Smithの目からみると、もう少し実務的な側面を強化すべきだという提案になる。

(3)解決へのさまざまな提案
解決策の一つとして、レビューするトピックの選定に優先順位をつけ、方向性をもっと明確にすること、たとえば最近イアン・チャーマーズが立ち上げたジェームズ・リンド連合体(James Lind Alliance; ※2)が行っているように、保健医療ケアのどこに問題があるかを特定し、それに基づいてレビューのテーマを決めるという方法を提案している。また、疫学研究者のロッド・ジャクソンらが提案するように、対象患者のリスクに応じて層別化できるように個々の患者データに基づいてレビューを行うことも、臨床医にとって本当に役立つデータベースを作る上で必要なことだろう。このような情報があれば、医師はどんなときに患者を治療すべきかを的確に判断できるからである。また、現在一般に行われている臨床試験は有害作用を特定する上では決して最良の方法ではない。有害作用に関する報告が臨床試験では乏しいことから、これらの報告をただ単純にレビューしたのでは、有害作用に関する情報が欠落する危険性が大きい。コクラン創設当初からの協力者であるアンディ・オックスマンも、レビューを改善するための13の提案の一つに「介入に伴って起こりうる重要な有害作用は(対象となる研究に、その有害作用が報告されているか否かに関わりなく)すべて記載すること」を挙げている。

(4)始まった改革
コクラン•ライブラリーでは、数年前に初めて編集長を置くことになり、1年前には現代型の最高責任者が新たに任命された。その結果、ゴールと目標を定めた戦略が立てられつつある。現在ある53のレビュー・グループが、コクラン共同計画を実施する構造として、最適な方法かどうかも検討中である。

※1 Cochrane Collaboration at 20:Much has been achieved, but much remains to be done.
BMJ 2013;347:17383: doi: 10.1136/bmj.17383 (Published 18.December 2013)

※2:James Lindはスコットランドの医師、英国の軍艦HMS Salisburyに軍医として勤務する傍ら、壊血病と新鮮な野菜や果物の不足の間に因果関係があることを実験的に証明した。Lindの功績にちなんで彼の名前を冠したこのNPOは、治療上まだ評価の定まっていない諸問題について、患者・介護者・医療者が一緒になって、問題を特定し、どのような臨床研究を最優先とすべきかを考える活動を展開している。

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