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新薬のエビデンス基盤の情報公開についてドイツIQWiGスタッフがBMJ誌に論文発表

2015-08-10

(キーワード:  ドイツIQWiG、医療技術評価、審査情報公開、患者アウトカム重視)

 欧州では各国の医療技術評価機関(HTA)が、資源の有効利用や費用対効果の観点から、EUで販売承認された新薬の保険収載や薬価について審査しており、このことが製薬企業の新薬開発に臨む姿勢にも影響を与えている。

 中でも国際的に注目されているのが、ドイツの医薬品市場新秩序法(AMNOG、2011年)のもとで新薬評価を行うIQWiG(医療の質・効率研究所)である。その特徴は、罹患率、死亡率、健康に関連する生活の質を意味する患者自身に切実な効果(患者アウトカム)において、新薬が従来の医薬品と比較して付加価値を付与できたかに分析の重点を置いていることである。

 このほど、IQWiGの医薬品評価部門長など11人のスタッフの共著で、「市場エントリーにおける新薬情報:医療技術評価レポートと、医薬品規制庁レポート(regulatory reports)、医学ジャーナル論文、臨床試験登録サイトでの報告との違いについての分析」の論文が、BMJ誌電子版2015年2月26日号に発表された(※1)ので、要旨を紹介する。
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 新薬が利用できるようになった時に、患者や医師はそれらの新薬の便益と害についての情報を求める。承認された適応についての情報は、患者や医師が個々の治療に応用する際の参考になる。それらの情報は良質のシステマティックレビューの基礎となり、診療ガイドラインに寄与するとともに、保健政策作成者が保険償還や薬価についての決定をする際に利用される。

 2011年にドイツは、医薬品市場新秩序法(AMNOG)を通じて新薬の初期便益評価(early benefit assessment)を導入した。市場エントリーに際し、製薬企業は適切に選択された既存治療に対する新薬の付加価値を示すエビデンスを提出せねばならない。付加価値は主に患者にとって切実な効果(罹患率、死亡率、健康に関する生活の質: 患者アウトカム)を用いて決定される。書類審査は通常IQWiGで行われ、結果はすべての情報を含み、製薬企業から提出された非公開の臨床試験レポートからのデータを含む。これらはオンラインで情報公開される。

 ここで重要なのは、規制庁での審査を経て最終的に承認された患者集団でのデータ、すなわち製品概要(SPC)に基づく承認された適応におけるデータである。これが患者や医師が医療の現場で個々の治療に応用する際に必要なものである。

 この最終的に承認された患者集団は、最初に臨床試験で対象となった患者集団とは異なる場合がある。例えばHIV患者におけるリルピビリンの適応となる患者集団は、審査の過程で規制庁が安全性の観点から、また便益リスク比を最大にする観点から、10万HIV-1RNAコピー/mL以下のウィルス負荷の患者集団に制限された。これは、それを超えるウィルス負荷の患者では、リルピビリンに対する耐性のリスク増加とウィルス学的反応の低下を示すことがサブグループ分析で示されているためである。

 われわれは、2011年1月1日から2013年2月28日までの期間にIQWiGで書類審査された、完全な初期便益評価が可能な研究が含まれるすべての書類を対象にして、これらを欧州医薬品庁(EMA)の公開審査レポート(European public assessment reports)、医学ジャーナル論文、臨床試験登録サイトでの報告で得られた情報と比較した。

 結果は、AMNOGに従って作成された記録(AMNOGレポート)は、そうでないもの(非AMNOGレポート)と比較して試験方法や患者に切実な効果(罹患率、死亡率、健康に関する生活の質: 患者アウトカム)について明らかに多くの情報を提供していた。その傾向は、医薬品が当初の臨床試験の対象となった患者集団でなく、安全面や便益リスク比を最大にする観点から、制限された患者集団に対して承認された場合にとりわけ顕著であった。

 AMNOG方式(AMNOG approarch)は、臨床試験の包括的な情報公開モデルを発展させていく上で、国際的に用いることができ、鍵となるオープンアクセス媒体(key open access measure)になると考えられた。
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 ドイツのAMNOGによる改革やIQWiGの医療技術評価などを通じる医薬品合理的使用への取り組みについては、これまでも注目情報で紹介してきた(※2-4)。日本では医療費の窮迫が言われる中でも、健康保険制度への費用対効果の導入がなかなか進まない現実がある。ドイツでは古くから医療費抑制と医療の質の向上の同時達成がめざされており、日本や各国にとって参考になることは多い。 (T)