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抗凝固剤プラザキサは用量調整のための血液凝固モニタリングが無いままでいいのか

2015-02-19

(キーワード: 抗凝固剤、出血、血液凝固モニタリング、用量調整、中和剤、プラザキサ、ダビガトラン)

 脳卒中や全身性塞栓症などを予防する抗凝固剤療法は、重篤な出血の危険をともなうリスクの高い薬物療法である。従来はワーファリンが血液凝固能モニタリングによって用量を調整しながら用いられてきたが、最近直接トロンビン阻害剤のプラザキサ(一般名ダビガトラン)などの新薬が50年ぶりに相次いで発売された。
 プラザキサは、これらのトップを行く製品で、ワーファリンと比べ何十倍も高価だが、「面倒な血液凝固能モニタリングが要らない」との宣伝のなかでワーファリンからの新薬シフト(切り替え)が進み、売り上げが急伸している。しかし、プラザキサは本当にモニタリングの必要がない医薬品なのだろうか。

 BMJ(英国医学誌)電子版が、2014年7月23日に「ダビガトラン: 製薬企業は重要な解析結果をどうして知らせなかったのか」の同誌編集者デボラ・コーエン氏の論文(※1)を掲載した。プラザキサは、米国で発売後、出血事故で年に542人もの死亡が報告され、訴訟となった。2014年6月にプラザキサの製造企業ベーリンガー・インゲルハイム(BI)社が6億5千万ドル(約700億円)を支払い、和解が成立した。BMJ誌は血液凝固能モニタリングで用量調整していれば出血事故を減じることができたとし、裁判所に提出されたBI社の社内メールなどの内部資料をもとに、BI社が出血事故を防ぐ測定法や指標を知りながら「面倒な血液凝固能モニタリングが要らない」を従来品との差別化の目玉とするために規制当局などに報告しなかったと推測している。

 この論文に対して、日本人医師も、BMJ誌電子版2014年10月15日号(※2)において、問題点を指摘している。
 以下、同日本人医師の指摘の要旨を紹介する。なお、その日本人医師は、降圧剤ディオバン(一般名バルサルタン)臨床研究論文の問題点を国際誌で指摘した由井芳樹医師(京大・循環器科)である。

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●日本の医師は、BI社からプラザキサ(ダビガトラン)による命を脅かす重篤な出血を予防するためにaPTT80s(注: aPTTは凝固時間測定法の1つである活性化部分トロンボプラスチン時間、80sは出血が増す境界値と推測されている80秒)が良い指標になりそのことはNEJM(ニューイングランド医学誌)に掲載された日本人を含む国際共同第形蟷邯RE-LY成績で明らかになったと情報提供されてきた。
しかし、BI社が各国の規制庁に提出した共通申請書類(CTD)には、“RE-LY試験における出血イベントを避けるためにaPTTに対する上限を設定することはできなかった”という上記情報提供と矛盾する内容が書かれている。「aPTT80sが良い指標となる」という根拠について、BI社に対して何度も問い合わせたが、BI社からその説明はなかった。

●2012年の死亡率は、ワーファリンが6.5%、リバーロキサバンが7.3%に対し、プラザキサ(ダビガトラン)は17.7%と非常に高い。これは真実か、あるいはデータ収集での問題なのだろうか。

●BI社は、RE-LY試験でのリスク比較で、ワーファリンに対するプラザキサ(ダビガトラン)の固定用量のメリットが証明され、血漿濃度のモニタリングは役に立たず必要がないと主張している。
しかし、血漿濃度が50 ng/mlから0 ng/mlでは虚血性脳卒中が急速に増加し、200ng/mlから800 ng/mlでは大出血が急激に増加する。
BI社がダビガトランの血漿濃度は大出血の決定因子でなく、モニタリングは必要ないとしているのは、誤った方向である。

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 プラザキサには、ここで指摘されている血漿濃度・凝固時間のモニタリングが要らないことを販売促進の焦点にした他にも、ワルファリンでは確立されている中和剤(毒性作用発現時の解毒剤でBI社が現在開発中)の製品化を待たず本剤を発売した大きな問題点がある。

 血漿濃度・凝固時間のモニタリングでは、最近国際誌にBI社の研究者による希釈トロンビン時間の測定(Hemoclot test)が簡単な点でも正確さの点でもプラザキサの血漿濃度・凝固時間のモニタリングに最適との論文が相次いで掲載されている。この希釈トロンビン時間の測定は欧州医薬品庁(EMA)が2008年に本剤を承認した時点で添付文書に有用な測定時の指標として明記されていた。
 BMJ編集委員の論文は、「BI社の内部資料はどのようにすれば出血リスクを減じることができるかを示しており、BI社はダビガトランの血漿濃度を測定し用量を調整すれば、大出血は良く調整したワルファリン使用と比較しても30~40%減じられることを見出した」と述べている。

 命にかかわる重大な問題だけに監視と取り組みを強めていく必要がある。 (T)