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ベンゾジアゼピン連用がアルツハイマー病の原因となる可能性が強まる

2015-01-27

(キーワード: ベンゾジアゼピン、アルツハイマー病、因果関係可能性、症例対照研究、投与量依存)

 しばしば慢性的に処方される薬剤に、不眠や不安などに処方されるベンゾジアゼピンがある。BMJ誌電子版2014年9月9日号が、ベンゾジアゼピンの長期連用はアルツハイマー病につながる可能性が強いとの研究論文を掲載している(※1)。

以下はその要旨である。
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 ベンゾジアゼピン連用のリスクについて注意するよう推奨されているにかかわらず、先進諸国でのベンゾジアゼピン使用はなお頻繁であり、高齢者の間でしばしば慢性的に用いられている。ベンゾジアゼピンが記憶や認識に急性の害作用をもつことは良く知られている。しかしベンゾジアゼピンがアルツハイマー病の原因となるかは明らかでない。両者に関係が見られても、ベンゾジアゼピン使用がアルツハイマー病の原因なのか、あるいはアルツハイマー病などの認知症の前駆症状(不眠や不安など)に対する処方としてベンゾジアゼピンがよく用いられるという関係なのかはっきりしていない。

 われわれはカナダ・ケベック州の健康保険プログラムデータベースを用い、ベンゾジアゼピン使用がアルツハイマー病の原因となるかについて症例対照研究を行った。ケベック州ではほぼ全員の高齢者(約98%)の薬剤使用データが長期にわたり蓄積されている。
 
「症例」は、ランダムに選ばれた、アルツハイマー病と初回診断される前に6年以上追跡されていた66歳以上のケベックの高齢居住者1796人である。「対照」は「症例」と性、年齢、調査期間などでマッチする居住者7184人である。ベンゾジアゼピン使用についてはアルツハイマー病初回診断の5年以上前に使用し始めた患者に限定した。これは逆の因果関係をできる限り避けるためである。

その結果、ベンゾジアゼピン使用はアルツハイマー病のリスク増加と関連しており、リスクが1.5倍になった(調整オッズ比1.51、95%信頼限界1.36-1.69)。この結果は、不安、うつ、不眠で調整しても変わらなかった。処方日数量が90以下、すなわち3か月以内相当の処方量では関連がみられなかった。関連の強さは処方量が多くなると増加した(処方日数量91-180でリスクが1.32倍、>180では1.84倍)。また、半減期で分類した短時間作用剤(20時間以下)ではリスクが1.43倍であるのに比し、長時間作用剤では1.70倍であった。

すなわち、3か月相当以上の総量のベンゾジアゼピンの使用はアルツハイマー病のリスクを増加させる。総量が増せば関係が強まり、また半減期の長い薬で関係が強かった。このことはベンゾジアゼピン連用がアルツハイマー病の原因となることを推定させる。高齢者へのベンゾジアゼピン使用についての適切な診療ガイドラインが必要であり、できるだけ短い半減期のものでの短期間使用にとどめるべきである。
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ベンゾジアゼピンの高齢者への使用については、その認知面への副作用などから警告がなされてきている。例えば米国高齢者医学会は、2012年にベンゾジアゼピン、抗コリン剤、H2抗ヒスタミン剤を高齢者に不適切な薬剤としてリストアップしている。それにもかかわらず先進国で多くの高齢者がベンゾジアゼピンを処方され続けている。

今回研究者たちが行った「症例対照研究」(ケースコントロール研究)では、特定の疾患(今回の場合はアルツハイマー病)を起こしている患者を症例(ケース)群とし、特定の疾患を起こしていないが、それ以外の条件はできるだけ症例群に類似した患者を対照(コントロール)群として設定する。両群の過去の潜在的な危険(今回の場合はベンゾジアゼピン使用)にさらされた経験を調査して比較し、疾患の原因を推定する。

対象を、ベンゾジアゼピンを投与する群としない群に分け、アルツハイマー病の発現について比較する前向きの試験は倫理的でない。そうした際に用いる科学的な観察研究で、保健医療上の問題に対処するうえで重要な指針となるエビデンス(根拠となるデータ)が得られる。過去に、膣腺がんとジエチルスチルベストロール(DES)、ライ症候群とアスピリン、脳症と非ステロイド抗炎症剤などの因果関係が症例対照研究を通して明らかになっている。

ほぼ高齢者全員の薬剤使用データが蓄積されているカナダ・ケベック州の「ビッグデータ」を用い、適切なデザインの症例対照研究により、ベンゾジアゼピンの連用がアルツハイマー病のリスクを増大させることを見出した意義は大きい。

日本においても、ベンゾジアゼピンは慢性的に長期にわたって処方されており、長期処方の規制などの対策が求められている。   (T)