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被験者保護の観点からプロトコルに法規範性を認めた注目すべき判決 〜植え込み型補助人工心臓「エヴァハート」治験訴訟・東京地裁判決〜

2014-12-11

 当会議は、平成21年3月、当時高頻度に死亡が報告されていた植え込み型補助人工心臓LVAS-C01(「エヴァハート」)について、治験が適正に行われたのかなどを調査するための委員会を厚労省内に設置することを内容とする意見書を提出した。
 平成26年2月20日、東京地方裁判所は、そのエヴァハートの治験において、治験実施計画書(プロトコル)に定める除外基準の違反が認められ、この違反は民事法上も違法評価を受けるものであり、その後の被験者の死亡との因果関係も認められるとして、治験実施医療機関である東京女子医科大学に対し、859万1027円の損害賠償金を支払うよう命じた。(被告控訴、その後控訴審で和解成立。)

 エヴァハートは、東京女子医科大学のY医師(現主任教授)が考案(特許取得)した定常流型・体内植え込み型デバイスであり、画期的な国産技術として注目を浴びました。開発・製造を担当したサンメディカル技術研究所は、エヴァハートの開発を目的にY医師の父親の出資により設立された会社であり、代表者はY医師の実兄です。エヴァハートは治験終了後の平成22年12月8日製造販売承認を受け、平成23年4月から保険適用となっています。
 本件の治験実施計画書(プロトコル)においては「体表面積(BSA)<1.4屐廚隆擬圓鮗8海ら除外する旨の定め(除外基準)がありました。
 本件患者(被験者)は虚血性心筋症による重症心不全であり、平成18年5月に同大学病院循環器内科に入院、同年8月4日〜平成19年3月29日の間のBSAは1.26屐1.39屬隆屬鮨箘棔∧神19年3月29日本件治験(ピボタルスタディ)の被験者として同大学病院心臓血管外科にてエヴァハート植え込み手術を受けました。(直前期のBSAは3月8日1.39、手術前日1.38。)平成20年7月11日エヴァハートによる胃穿孔が判明し、患者はその後脳出血により同年10月10日に死亡しています。
 今回の判決において、東京地方裁判所は、被験者保護の観点から注目すべき判断を示しています。

 裁判所は、「治験が未だ人体に対する安全性が確認されておらず医療行為として認可を受けていない段階において人体に対する侵襲を伴う行為を実施する性格を有するものであること」から、プロトコルは「その治験の内容、方法を画するものとして治験実施の正当性を基礎づける意味合いをもつもの」であると位置付けたうえで、このような見地からすれば、プロトコル中少なくとも被験者の安全性に関わる事項については、あくまでも厳格に解釈されなければならない、とのプロトコル解釈についての判断枠組みを提示しました。
 この点、被告は、除外基準(体表面積基準)の判断にあたっても治験実施者たる医師による一定の合理的裁量が許容されるべきことを強く主張し、実質的観点からの様々な反論を提示しましたが、裁判所は、当該除外基準が「胸腔腹腔スペースの十分でない体格の小さな患者を除外し、エヴァハート植え込みに伴う周辺臓器圧迫による合併症の危険性を避けるためのもの」であったと認定したうえで、前述の厳格解釈の観点から被告の反論を全て斥けて、プロトコル違反を認めました。
 そして、裁判所は、プロトコル中の被験者保護規定の法規範性を明確に認め、その違背は社会相当性を逸脱するものとして民事法上違法の評価を受けるものと認めました。
 
 本判決は、法理論的にみて大変興味深く、かつ、実践的にも独り治験の場面のみにとどまらず予後不良事案一般に応用可能性のある、注目すべき内容です。(A)