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米国NIH(国立衛生研究所)が「利害の衝突」管理を徹底して強化

2004-08-26

 (キーワード:  米国、利害の衝突、コンサルタント、株、議会の追及、制度改善、利害の衝突の開示)

 大阪大学病院の臨床試験をめぐる未公開株取得問題で、製薬会社の株を持つ医師らが臨床試験に携わるなどして、有効性・安全性などの判定に公正さが疑われる「利害の衝突(Conflict of Interest)」が、問題になっています。この「利害の衝突」の問題が注目されたのはもともと米国で、1999年に米国ペンシルベニア大学で起きた大学発ベンチャーによる遺伝子治療の臨床試験で患者の少年が死亡した事件が有名です(李啓充さんの「続アメリカ医療の光と影」に詳述されています)(※1)。

 その米国で、最近この「利害の衝突」問題での緩みがNIH(国立衛生研究所)について大きな問題となり、米国議会がこれを追及、NIHなどで制度の改善に取り組まれています。このことを中心に、米国での「利害の衝突」をめぐる最近の動きについて記載します。

 米国NIH(国立衛生研究所)が、予算が1998年から2003年に2倍に増額になっている一方で、所属の研究者たちが製薬企業やバイテク企業から多額の顧問料を得たり、報酬を株で得たりすることが1995年以来容認・助長され、目に余る状況にあることが、2003年12月7日のロスアンゼルスタイムズ紙をはじめ、マスコミで曝露されました。米議会が調査に入り、調査対象も15の他の連邦政府機関に広がっていきました(Nature誌2004年5月20日号、Science誌5月21日号など)。

 この問題を、Nature誌2004年7月1日号(Nature 430,1,2004)が、ひき続き記事にしています。以下はその要約です。

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これまでNIHの理事たちが米議会に語ってきたことが、その
後明らかになってきた新たな事実で否定されている。公衆
の信頼を回復するには、NIHスタッフを厳しく規制する規則
が不可欠な状況にある。議会委員会の緊迫した状況は、も
はや煙を出している状態を越え、火を噴いている。

NIHのZerhouniディレクターは、Greenwood議長(共和党、ペ
ンシルベニア)の小委員会に、今やNIHで「ドラスティック
(徹底的)な変化」が起こらねばならないと述べた。彼はNIH
上級職員が報酬を得て顧問の仕事を行うことを禁止すると
提案した。そうでない職員は顧問として仕事ができるが、
報酬はサラリーの25%以下とし、従事時間も400時間までと
する。
NIHの職員は誰も、報酬を株で得てはならない。また、製
薬企業、バイオテクノロジー企業の株の保持も禁じる。中
には株を手放すよりはNIHを去る研究者もいるが、NIHの評
判を回復するには、そうした犠牲も甘んじて受け入れなけ
ればならない、とZerhouniディレクターは述べた。
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 一方、米国の医薬品監視を行っている市民団体パブリックシテイズンは、同団体が他の既存品に比し著しく害反応(副作用)が重篤であると市場追放を要望しているコレステロール低下剤クレストール(ロスバスタチン)の問題と、NIH(国立衛生研究所)の「利害の衝突」問題を結びつける形で7月8日、NIHディレクターに質問状を送り、NIHの見解を求めています(※2)。以下はその要約です。

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アストラゼネカのコレステロール低下剤クレストール(ロス
バスタチン)について重大なリスクを過小評価した不完全で
不正確な分析が、アストラゼネカのコンサルタントであった
NIH(関連施設NHLBI、国立心臓・肺・血液研究所)の上級研究
者/医師によって、シンポジウムの議事録に掲載されている。
このクレストールの安全性分析は、アストラゼネカが2003年
4月、NIHの医師、Dr.H. Brian Brewerに提供した情報に基づ
いてなされたものであった。

米国心臓病学会が2002年11月に開催したシンポジウムと、ク
レストール承認直後の2003年8月21日にアストラゼネカの便宜
を図って出版されたシンポジウム議事録を含む American
Journal of Cardiology誌のサプリメント(増刊)号とは、アス
トラゼネカの教育助成金により、経済的に支えられていた。
Dr. Brewerによる記事での不完全で不正確な情報は、80mg投与
で起こった重篤な害反応(副作用)には全く触れていないなど、
多岐にわたっている。

他の多くの医学雑誌のサプリメント号がそうであるように、こ
のサプリメント号も、特定の医薬品について企業にとって好ま
しい情報を掲載し、出版社の収入を増加させるのに用いられて
いる。その医学雑誌の通常号が有する名声を利用して、その医
薬品を処方することができる医師に製薬企業が大量に配布する
ものである。サプリメント号の記事は、通常号のそれよりも質
的に劣ることが研究報告で明らかになっている。

アストラゼネカは、本剤のコレステロール低下作用が強いこと
で売り込みを図っているが、販促で用いるスライドは
Dr. Brewerの記事に基づくものである。

製薬企業とNIH研究者との関係を含む最近のスキャンダルの観
点から、多くの疑問があり、これらについてNIHの早急な回答
を望むものである。
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 さらに、 Nature誌2004年7月15日号は、「著者の利害の衝突開示をより促進させるべき」というタイトルの記事を掲載しています(Nature 430,280,2004)。以下はその要約です。

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医学論文の多くは経済的利害関係の開示が不十分であると、
ここ3か月間の主要な医学雑誌4誌を調べたワシントンの市
民団体(the Center for Science in the Public Interest,
CSPI)が指摘している。

産業界と学界の連携が広く行われるようになってのここ20
年、研究者の経済的関心が研究の客観性や方法に影響を与
える可能性が問題となってきた。しかし、研究ジャーナル
の対応は遅く、1997年に1400の代表的バイオメディカル・
ジャーナルのうち、経済的利害関係を開示する方針を明ら
かにしたのは16%に過ぎなかった。

CSPI研究者のGooznerさんは、2003年12月から2004年2月の
間に発行された、New Eng J Med、JAMA、Environment
Health Perspect、Toxicol & Appl Pharmacolの4医学雑誌
の記事について検討した。利害関係の申告のない第1著者に
ついて実際がどうであるか調べた。7月12日に発表された報
告書で、163研究のうち、13研究が利害関係の開示をしてい
なかった。

例をあげると、1人の著者は論文でがん研究に役立ちそうだ
と示唆していた試薬を、特許申請していた。他の1人の冠動
脈心疾患についての著者は、心疾患分野で20を越える会社か
らコンサルタント料を受け取っていた。

これは、「該当する利害関係」のみを要求するジャーナルの
方にも問題があると、Gooznerさんは指摘する。著者の方では
それならと容易に除外を自分で正当化してしまう。Goozner
さんは、すべての会社との経済関係、特許関係を申告させ、
ジャーナルへの掲載をどうするかは編集者に決めさせるとい
う解決法を呈示している。
  (T)