注目情報

  1. ホーム
  2. 注目情報

医学生への製薬企業の「ギフト」を制限する医科大学の政策は、卒業後の処方行為の適正化につながっている

2013-05-07

(キーワード: 処方行為の適正化、製薬企業からのギフト、医科大学の規制ポリシー)

 製薬企業からのさまざまな形の「ギフト」が医師処方に影響を及ぼし、公共の医療費支出の増大をもたらしているとのデータは多く出されている。しかし、医学生に対する「ギフト」が、卒業し医師となってからの処方に影響を与えているかは、ほとんどデータがないため、論争が続いている。

 今回、この論争に新たな観点を加える研究が論文化された。英国医師会が出版するBMJ誌2013年2月23日号に掲載された「医科大学の企業からのギフトを規制するポリシーと医師の向精神剤新薬処方: difference-in-difference 分析」のタイトルの論文である。

 なお、difference-in-difference(DID)分析とは、ある処置がもたらす変化を一定の時間をおいて分析する手法である。米国でのデータであり、米国に比し医学生時代に製薬企業との接点が少ないと考えられる日本とは事情が異なる面があるが、製薬企業のギフトが医師の処方に影響を及ぼす、そうした悪しき状況がいかに形成されていくか、それに対する医科大学などの対処はどうあるべきか、という点では共通する話題である。以下に要旨を紹介する。
--------------------------------------------------------------
 2002年に米国医学生連盟は、製薬企業のマーケティングに基づく処方でなく、エビデンス(科学的証拠)に基づく処方行動を志向する PharmFree Campaign (「製薬企業の営業に影響されるな」キャンペーン)を確立した。これらの取組みの一環として、医学生連盟は2007年に、米国の医科大学が医学生・教職員と製薬企業・医療機器企業との相互関係を規制するポリシーをもっているかどうかでスコア―(得点)をつけるPharmFree scorecard を公表した。これを機にそうした利益相反ポリシーを定める医科大学の数が飛躍的に増加し、現在ではほとんどの医科大学がポリシーを定めている。

 このPharmFree Campaign以前には、医学生は医学教育のなかで製薬企業のマーケティングにじかにさらされていた。2005年に出版された8つの医科大学での調査では、3年次の医学生の96.8%が製薬企業からランチの供与を受けていた。また94.1%が教育関係でない「ギフト」をもらっていた。平均で、週に一度は何らかの「ギフト」をもらうか、製薬企業がスポンサーのイベントに出席していた。かれらは高額な学費支出のなかでこれらを自分たちが受けて当然の特典としてとらえていたのである。それらがかれらの製薬企業の新薬への好意的な態度につながっていた。

 われわれは、製薬企業からの「ギフト」を規制するポリシーを医科大学がもつことが、医学生たちの卒業後の新薬処方行動に及ぼす影響について、提供を受けたIMSデータベースなどを利用して研究した。ポリシーをもつ全米14医科大学の卒業生を対象にし、他のポリシーを持たない医科大学卒業生の対照と新薬処方行動を比較した。処方パターンの調査時点は2008-2009年である。

 卒業生の医師たちの処方行動をみた新薬は、類薬やジェネリック薬で十分代替できる治療価値の低い精神科領域のブランド新薬である(精神刺激薬lisdexamphetamine、抗精神病薬paliperidone、抗うつ薬desvenlaxafaxine)。その結果、3つのうち最初にあげた2つでは、医学生への企業の「ギフト」を制限する政策をもつ医科大学を卒業した医師は、新薬への処方が少なかった。より厳しい政策を持つ大学の卒業生や長い間それらの政策にふれてきた卒業生ではさらに処方が減じた。
--------------------------------------------------------------
 この研究は、常識的に考えて十分ありえることをデータで示した意義がある。製薬企業が医師へのマーケッティングに用いた費用は公共的な支出、患者の支出として跳ね返ってくる。米国の医学生たちのPharm Free Campaign や米国の研究者たちのエビデンスを示す研究など、日本が学ぶものは多い。  (T)

関連資料・リンク等