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FDAのダイエタリーサプリメントに関する新しい規制の試み

2012-07-19

(キーワード:機能性食品、生薬、レギュラトリーサイエンス、圧力団体)

 現在、アメリカでは1億人もの国民が何らかのダイエタリーサプリメントを摂取し、その消費量は1年につき280億ドル(約2.2兆円)以上といわれている。そのような中、2009年以降、スルフォエイデナフィル(※1)を含むダイエタリーサプリメントがアメリカ国内で流通していたことが明らかになった。それを受けて、アメリカ医薬品局(FDA)は2011年7月、業界に向けた新しいダイエタリーサプリメントに関するガイドライン案(※2)を発表した。このガイドラインは、1994年のDSHEA(ダイエタリーサプリメント健康教育法)制定後に登場したダイエタリーサプリメント素材に関する安全性に関するデータを提示する義務を販売者は負う、というものであった。これに対して、業界団体は激しく抵抗し、14万ページ以上におよぶパブリックコメントをFDAに提出し、このガイドライン案の撤回を迫っている。
(New England Journal of Medicine 366(5) 389-391より、※3)


<Ophioglossum polyphyllous問題>
 アメリカで"Zotrex"という業者が"Ophioglossum polyphyllous"という内容物を含んでいるとラベルされていたダイエタリーサプリメント製品を1400万カプセル近く販売していたところ、そこから合成化合物であるスルフォエイデナフィル(※1)が検出され、2009年12月に食品医薬品局(FDA)から製品回収を命じられた(※4)。
 "Ophioglossum"とは、シダ植物ハナヤスリ科に属する植物の属名で、日本にはコヒロハハナヤスリ(Ophioglossum petiolatum)やハマハナヤスリ(Ophioglossum thermale)などが分布している。今回問題になった"Ophioglossum polyphyllous"という植物は、スペイン領カナリア諸島に分布するこのシダ植物の仲間と思われるが、この植物に性機能を亢進させるという作用については、実験的にも伝承的にも知られていない。
 また、スルフォエイデナフィルは勃起不全治療薬であるシルデナフィルクエン酸塩の類似化合物である。スルフォエイデナフィルは全くの合成化合物であり、この植物に含まれているということはなく、今回のケースではダイエタリーサプリメントの効果を高めるために意図的に混入されたものである。また、スルフォエイデナフィルは世界各地で医薬品として認可された実績もなく、臨床試験もなされていないので、安全性についてはまったく不明である。

<アメリカにおけるダイエタリーサプリメント製品認可の基準について>
 現在、アメリカでは1億人以上の人がダイエタリーサプリメントに対して毎年280億ドル(約2.2兆円)以上を使っている。このダイエタリーサプリメントとは、アメリカでは1994年に制定されたDSEHA(Dietary Supplement Health and Education Act、ダイエタリーサプリメント健康教育法)により、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、ハーブ類を原料とするもので、日本における特定保健用食品のように一定レベルの効能効果とともに販売されている商品のことである。この法律では、成立した1994以前にアメリカ国内で販売されていた機能性素材については、安全性に関するデータがなくても販売することが出来るが、1994年以降に販売する新しい機能性素材については、製造販売業者がFDAに安全性についてのデータを提出しなければならないことが規定されている。しかし、その「新しい機能性素材」に関する定義がこれまではあいまいであったために、実際に提出された安全性に関するデータはたった170の素材についてしかないのに、実際の市場に出ているダイエタリーサプリメント製品は1994年では4,000種類だったのが、現在では51,000種類にまでふくれあがっている。
 冒頭の"Ophioglossum polyphyllous"という植物は、安全性のデータが提出された素材でもなく、アメリカに自生する植物でもないことから、1994年以前からアメリカ国内で使用されていた歴史があるかどうかが分からないにもかかわらず、実際にはダイエタリーサプリメントの原料として安全であるとFDAは認可されていた、ということになる。
 そのような状況を調整するために、2011年7月、FDAはその1994年以降の新しい機能性素材の安全性を評価するための新しいガイドライン案を発表した。それによると、ダイエタリーサプリメントの安全性は、3つの因子、すなわち、(1) アメリカ国内外で機能性素材として使用されていた実績、(2) 1日使用量、(3) 推奨される使用継続期間によって、評価することを提案した。そして、過去における使用実績よりも摂取量が多いものや、過去の使用実績があったとしてもその修飾物(日本の生薬における修治のようなもの?)についても、新しい素材と同様の安全性に関するデータを提出することを求めることとした。必要とされる安全性のデータの項目は、過去における使用実績と摂取方法(連日なのか断続的なのか)によって異なっているが、変異原性試験、動物における15日および90日間の安全性試験と催奇形性試験、動物における1年および2年間の発がん試験、動物およびヒトにおける体内動態試験である。

<業界の反発と記事の著者の意見>
 2011年7月のFDAのガイドライン案の発表後、業界団体はFDAに対して攻撃的に請願をし続け、14.6万ページにおけるコメントが提出された。その内容は、今回のガイドラインで求めている安全性試験の基準はあまりにも厳しく、またDSHEAの理念を弱体化するものであることから、撤回するべきである、というものである。
 しかし、この記事の著者の意見としては、過去に食品としての使用実績のない新しい素材についての安全性に関するデータは必要なことであり、FDAは業界の圧力に屈することは許されない。さらに言えば、過去において安全に使用されていたという実績だけでは、機能性素材の長期における安全性の保証としては弱いため、それによって安全性データの必要性を分ける事の合理性はなく、より厳格なダイエタリーサプリメントの認可を行うべきである、としている。


 1994年に制定されたDSHEA法では、新しい機能性素材については、食品としてだけではなく伝統医学での使用も含めた過去の使用実績に従って、それをダイエタリーサプリメントとして認めるというものである。生薬や漢方薬を医薬品として利用している日本においては、この点では異なった基準で新しい機能性食品素材の審査を行っており、あくまで食品としての使用実績に制限して食品と医薬品との区別をしている。すなわち、世界各地における伝統医学で使用する薬用植物についても、その民族の中で病気になった時にだけ使用するものはあくまで薬物であるとみなすため、機能性食品としては認可されない。この点では、アメリカよりも日本のほうが機能性食品の安全性がまだ担保されていることにはなるが、著者が述べるように歴史は安全性の保証にはならないのも事実である、新規素材については安全性の確認が必要だろう。(T.M)

※1
スルフォエイデナフィル(sulfoaildenafil):勃起不全に対して使用されるシルデナフィルクエン酸塩(クエン酸シルデナフィル、バイアグラ錠の有効成分)の類似化合物。国内外において医薬品としての使用実績はない。