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企業資金による臨床試験は、それ以外の試験よりも、公表率は低く、公表されたものも企業に有利な結果が報告される

2011-02-25

(キーワード:利益相反、臨床試験、ClinicalTrials.gov、資金源、結果公表率)

 利益相反に関する問題は、本欄でたびたび取り上げてきており、「利益相反」で検索すると、2005年12月20日から2011年2月4日までの約5年間に52報告に及んでいる。
 今回は、表題のような報告(出典は下記参照)を取り上げた。
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 ボストン子ども病院のBourgeois医師らは、米国国立保健研究所(NIH)が管理・運営している臨床試験の登録サイトであるClinicalTrials.gov(1999年開設、2010年11月10日現在、98,303件が登録されている)(※1)に登録されている臨床試験のうち、2000年〜2006年に行われたコレステロール低下薬、抗うつ薬、向精神薬、プロトンポンプ阻害薬、血管拡張薬についての546試験を対象に、その登録時期、研究デザイン、試験結果の内容と公表時期とともに、資金源を調査した。
 その結果、346試験(63%)は主に企業から、74試験(14%)は政府、126試験(23%)は非営利ないし非連邦組織(大学、病院、財団、個人等)から資金を得ていた。これらのうち、362試験(66.3%)が結果を公表していたが、ポジティブな(企業に有利な)結果であった試験の割合は、資金が企業の場合は85.4%であったのに対し、政府の場合は50.0%、非営利ないし非連邦組織の場合は71.9%で、有意な差(p<0.001)がみられた。非営利ないし非連邦組織の場合でも、企業からも資金を得ていた場合は、そうでない場合にくらべてポジティブな結果(85.0%対61.2%で、p<0.013)が示された。試験完了後2年以内の結果公表率は、資金が企業の場合は32.4%であったのに対し、企業から資金を得ない非営利ないし非連邦組織の場合は56.2%で、有意な差(p=0.005)がみられた。著者らは、この結果の範囲内での結論として、企業からの資金で行った臨床試験は、企業以外からの資金による試験に比し、終了後2年以内の公表率は低く、公表されたものはポジティブな結果が報告されていたとしている。
 なお、この研究の資金は、主に、国立保健研究所の国立医学図書館と国立小児保健・人間発達研究所から得ている。
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 2010年8月2日付ロサンゼルス・タイムズ紙(※2)は、この論文の要旨を紹介し、「医学研究の結果を評価する際は、その研究資金を誰が出したかを考慮することが重要だ」と記している。
 ところが、「ミクスOnline」(注,※3)によれば、米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、この研究について、「業界主導の臨床試験を高く評価する論文」として紹介し、「長い開発ステージの過程で業界が主導する後期開発段階の臨床試験が、安全性・有効性を明確にする重要な試験で肯定的結果を多数生みだしていることについて、著者らがよく理解している点を評価している。」と記していて、前記のような論文の中心的な内容は紹介していない。
 メディア情報については、その情報だけで判断するのでなく、情報の元になった一次資料を入手して評価すべきということの格好の1事例というべきであろう。(KK)


出典  Florence T Bourgeois,et al:Outcome Reporting Among Drug Trials Registered in ClinicalTrials.gov. Ann of Intern Med. 2010;153:158- 166.
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注 「ミクスOnline」は、「医薬品業界の市場情報やヘルス・サイエンスに関わる人々の知識向上につながる情報・サービスを提供する 医薬情報サイト」と説明されている。

※3 PhRMA 臨床試験透明化推進で声明 ミクスOnline 、2010年8月26日公開記事