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ドイツが糖尿病治療剤アクトスなどの保険償還中止を決定

2011-02-04

(キーワード: アクトス、グリタゾン剤、保険償還中止、ドイツ)

 糖尿病治療剤アクトス(一般名ピオグリタゾン)の類薬であるアバンディア(一般名ロシグリタゾン、日本未発売)が2010年9月23日、欧州では市場撤去、米国では厳しく販売が制限されることになり、製造販売メーカーは世界的に販売促進活動を停止すると発表した(※1)。
 グリタゾン類(ロシグリタゾンとピオグリタゾンを指す)についてHeart誌は2008年8月、臨床上の有用性を示すエビデンスがほとんどないとの論説を発表している(※2)。医薬情報誌プレスクリールは2008年10月、アクトスは用いないようにと重ねて意見を掲載している(※3)。
 「グリタゾン剤にもう1つの逆流: ドイツが保険償還を中止」の記事を2010年11月8日のピンクシート・デイリー電子版が伝えている。なお、保険償還とは患者の支払った医療費の一部が保険で患者に戻される制度であるが、広くは医療費の一部または全額を医療保険が負担する制度をいう。以下は記事の要旨である。
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 連邦合同委員会(G-BA)(注記)と連邦保健省(BMG)の長く続いたやりとりの後で、ドイツは2型糖尿病に対して用いられるグリタゾン剤について保険償還を中止すると最終的に決定した。
 現在アバンディアとアクトスの2つのグリタゾン剤がドイツで用いられている。これらの医薬品について、連邦合同委員会はこれらの薬剤が既存の治療に対しベネフィットを付加するというエビデンスは乏しく、また好ましくない安全性プロファイル(横顔)を示していると結論した。しかし、患者にとって有用と確信できるなら医師は例外的な症例では処方を続けることができると付け加えた。
 この動きは、欧州医薬品庁(EMA)がアバンディアの承認一時停止を推奨しているもとで、欧州におけるグリタゾン剤に対してさらに打撃を与えるものである。
 連邦合同委員会は、現在の医学的知識に照らして、医薬品の治療的ベネフィット、医学的必要性、経済的な効率性が証明されないならば、その医薬品の保険償還を制限または中止できることが法律で定められている。また医薬品が不適切であり、同じベネフィットを有する安価な代替品が存在するときも同様である。連邦合同委員会は医薬品の評価を自身が行うか、またはその義務をIQWiG(保健衛生制度における質と経済性に関する研究所)に委託することができる。保険償還目録からある医薬品を除く決定は保健省によって承認されねばならない。

 連邦合同委員会が最初その決定を保健省に伝えた際に保健省は、連邦合同委員会の所見が十分に包括的であると言えないとした。連邦合同委員会はこれに対し、IQWiGに2005年に委託したグリタゾン剤に関する評価報告書を示した。IQWiGの最終報告書は、グリタゾン剤が大血管、小血管に影響を及ぼして疾患と死亡を引き起こすことを考慮した切実な臨床的エンドポイント(評価項目)が同定されていず、グリタゾン剤が既存の治療にベネフィットを付加するとは証明されていないと結論していた。これとは対照的にメトフォルミンやスルフォニル尿素は、これらに明瞭にベネフィットを示していた。2つのグリタゾン剤とも浮腫の頻度が高く、体重を増加させる。アクトスの使用は女性で骨折の頻度を増加させる。2剤ともまれだが肝臓障害と肝細胞の機能障害を引き起こす。
 連邦合同委員会は、健康障害をもたらす可能性から、グリタゾン剤の使用は不適切であり、とりわけすべての治療状況で代替治療がある場合はそうであると述べた。連邦合同委員会はすべての場合にリスクが考えられるベネフィットを上回ると結論した。保健省は11月3日、エビデンスを受け入れ、保険償還目録からアバンディアとアクトスを削除することを承認した。


 アクトスについて当会議は、2000年10月に「アクトスの販売中止と回収」を求める要望書を厚生省(当時)と武田薬品に(※4)、また2000年12月には公開反論書「アクトスは糖尿病治療薬としては不適です」を武田薬品に提出している(※5)。10年が経過しているが、ドイツで保険償還が中止されたことは、正しいことが受け容れられはじめたことを示している。   (T)


注 連邦合同委員会
 ドイツ連邦のヘルスケア・システムで重要な位置を占める自治組織体。ドイツ医師歯科医師会・ドイツ病院連合会・健康保険基金連合会からなる特殊法人。自治の最高の意思決定機関で、何を保険償還するかなどを意思決定する。ドイツ患者連合会は、連邦合同委員会に対し、意見を書類提出し、またコンサルテーション(意見聴取)に参加する権利を有している。連邦合同委員会の決定は保健省(BMG)に提出され、2か月以内に保健省の異議がなければ確定する。