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オーストラリアのPBS(医薬品有効利用計画)に米国が介入

2004-07-12

[キーワード: オーストラリア、PBS(医薬品有効利用計画)、自由貿易協定、米国の介入]

 一般に製薬企業の活動が活発な先進国では、WHOの必須医薬品コンセプト(※1)をその国に具体化した必須薬リストの制定と活用が遅れているのですが、オーストラリアはそうしたリストを作成している数少ない先進国のひとつです。

 オーストラリアでは、PBS(Pharmaceutical Benefit Scheme、医薬品有効利用計画)にもとづき、全額または一部を国庫が負担するというかたちで医薬品のリストが作成されています。

 2002年5月には593の医薬品成分がリストに挙げられており、剤型・規格別では1451が使用可能になっていますが、そのうち785が制限つきの使用、そのうち286が専門医のみ使用可能と、細かな管理がされています。このようなシステムは、日本における今後のあり方にも示唆を与えてくれています。

 一方、自由貿易協定は、通商上の障壁を除去して、自由な取引活動の実現をめざすものでありますが、オーストラリアと米国との2国間自由貿易協定の交渉では、自主的なPBSの決定がこれによって阻害されるのではないかとの懸念が表明されてきました。

 最近、この協定の交渉がまとまり、正式調印されました(※2)。

 この協定について、英国医師会のBMJ誌に、オーストラリアの法律と臨床薬理学の2教授による「オーストラリアと米国との自由貿易協定:オーストラリアの公衆衛生の土台を堀崩し、米国製薬産業の利益を保護するもの」が掲載されています。

 BMJ 328,1271-1272,2004.5.29  BMJのウエブサイト(※3)で全文が読めます(トップページ右上にある Search で、Vol.328,page1271と入力)。

 著者たちは、この交渉で「驚くべきことに、オーストラリアの国内システムであるPBSが取引の対象にされ、オーストラリアの交渉者たちは米国の要求を認めた」とし、交渉者たちはこれまで医薬品の費用効果や価格についてゆるがないスタンスで臨んできた医薬品有効利用諮問委員会を軽視し、諮問委員会が採用を拒否した製品の再検討機関を設けさせたり、知的所有権保護の条項を改変して安価なジェネリック医薬の採用を妨げようとしたりしていると非難しています。

 著者たちは、これらが公衆衛生上の利益を重んじ、医薬品へのアクセス促進を謳ったWTO(世界貿易機関)のドーハ宣言からの後退であり、米国のグローバルな動きの一環であるとして、米国と同様の自由貿易協定の交渉を進めている各国に対し、自国の公衆衛生システムを危ういギャンブルにかけるなと警告しています。         
(T)