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減塩による心血管病・全死亡減少効果は降圧剤療法の効果よりも大きい

2010-04-27

(キーワード: 食塩摂取、加工食品、減塩効果、心血管病・死亡、降圧剤療法効果との比較)

 食塩の過剰摂取が心血管病や死亡を増加させることが知られている。食塩摂取を減らす取り組みは、降圧剤療法・喫煙抑制・体重抑制などの他の介入と比べ、効果の大きさはどのようなものなのか? ビビンス-ドミンゴ(カリフォルニア大学)らが米国35-84歳の成人での冠動脈疾患政策モデルを用いてコンピューター・シミュレーションを行い検討した。
 以下は、ニューイングランド医学雑誌(NEJM)2010年2月18日号に掲載された論文の要約である。
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 米国では、成人の1日の食塩摂取を5.8g(ナトリウムでは2300mg)以下にするよう推奨されている。しかし、食塩摂取量は年々増加しており、2005-2006年に男性では平均して1日10.4g、女性では7.3gも食塩を摂取している。その摂取源は75%が加工食品である。
 われわれはあまり大きくない量の食塩摂取抑制が米国人の健康に及ぼすインパクトを明らかにするために、米国35-84歳の成人での冠動脈疾患政策モデルを用い、その心血管病と全死亡の減少をもたらす効果をコンピューター・シミュレーションで検討するとともに、その費用対効果の程度を降圧剤療法、喫煙抑制、肥満抑制などと比較した。
 その結果、1日3gの食塩摂取抑制は年間で新たな心血管病の発症を60,000-120,000件減少させ、脳卒中を32,000-66,000件、心筋梗塞を54,000-99,000件、全死亡を44,000-92.,000件減少させる。効果は減塩量に比例しており、1日1gのわずかな食塩摂取抑制でも効果は大きい(年間で新たな心血管病の発症を20,000-40,000件減少させ、新たな脳卒中を11,000-23,000件、新規・再発心筋梗塞を18,000-35,000件、全死亡を15,000-32.,000件減少させる)。他の介入との心血管疾患・全死亡の減少効果の比較では、1日3gの食塩摂取抑制の効果は、降圧剤療法の効果とほぼ等しく、喫煙抑制(喫煙量を半減)、肥満抑制(肥満指数BMIの5%減少)とほぼ同等ないしそれらより効果が大きい。
 費用効果の検討では、1日3gの食塩摂取抑制は19,400-392,000QALYs(生活の質を調整した生存年数)の増加をもたらし、また医療費を100-240億ドル(約1兆-2.4兆円)節約できると推定された。降圧剤療法との比較では、2010-2019年の10年かけて段階的に1日3gの食塩摂取抑制を達成する場合は食塩摂取抑制の費用効果がすべての高血圧症患者に対する降圧剤療法の費用効果よりもはるかに大きかった。10年かけて段階的に1gの食塩摂取抑制を達成する場合でも、食塩摂取抑制の費用効果が降圧剤療法の費用効果に勝った。
 あまり大きくない量の食塩摂取抑制でも心血管病を大きく減少させ、医療費の削減に効果的である。これを公衆衛生の目標として設定すべきである。
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 ここで用いられている冠動脈疾患政策モデル(Coronary Heart Disease Policy Model)は、米国における35-84歳の成人での冠動脈疾患のあらわれ方とリスク軽減のための介入の効果を知るためのコンピューターシミュレーションモデルとして良く用いられている。コンピューターシミュレーションモデルで得られた結果が確実なものとなるには、その結果を仮説とした臨床試験や疫学的研究が必要である。また、今回の研究結果は食塩の平均1日摂取量が男性10.4g、女性では7.3gという米国人を対象としたものであり、1日平均摂取量が男女とも10gを超えている日本人を考えた場合、今回の結果を日本人に直接当てはめることができるかは検討の余地があるだろう。しかし、減塩効果の大きさをシミュレーションで推測した今回の結果は興味深い。日本でも同じだが米国では加工品からの食塩の過剰摂取が問題となっており、このような研究への関心は高い。この論文が掲載されてすぐ後に、米国内科学会が発行する内科学アナルズ(Ann.Int.Med)誌電子版2010年3月2日号にも食品会社との減塩への協同の取り組みや食品中の食塩への課税が冠動脈疾患などの軽減に大きい効果をもたらすとの、やはりシミュレーションモデルでの研究論文が掲載されている。
 2010年2月の注目情報で、糖尿病の発症予防には薬物治療よりも生活習慣改善の効果が大きいことが示された文献を紹介した(※1)。心血管疾患の予防に対する食塩摂取抑制の効果が降圧剤療法よりも大きいとした今回の文献は、薬に頼るのでなく生活習慣改善の努力が大切なことを教えているのではないだろうか。  (T)