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米国FDAは長時間作用型オピオイド全体にREMSの作成を指示

2009-05-14

(キーワード:リスク評価.リスク緩和戦略、REMS、FDA再生法、オピオイド、麻薬性鎮痛剤)

 “オピオイド”は癌性疼痛や慢性疼痛の治療薬として臨床で多用されている薬剤で、麻薬性鎮痛薬とも呼ばれる(註1)。2009年2月、FDAはこの麻薬性鎮痛薬のうち主に長時間作用型に属する薬剤(註2)クラス全体に対してREMS(リスク評価.リスク緩和戦略)の作成を指示した。その背景には、米国では、これらの薬剤の誤用、乱用、過量服用よる中毒や死亡が増加していることがある(註3)。このことは、添付文書に黒枠つきの警告が記載されるだけでは、重篤なリスクを回避できていないことを示している。表題の、スクリップ誌2009年2月20日号の記事を以下に紹介する。

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 REMSの作成を指示されたのは、以下の5つの薬剤であるが16メーカーの24製剤(ブランド品とジェネリック品)が該当し、誤用、乱用、過量服用よる中毒や死亡、重篤な障害等を減らすために、クラス全体に共通したREMSを各社が協力して作成するよう命じられた。

徐放性経皮剤:フェンタニル
徐放性錠剤:モルヒネ、オキシモルヒネ、オキシコドン
徐放性カプセル剤:モルヒネ
速放性錠剤:メタゾン(メサゾン)
(訳注:オキシモルヒネ、メタゾン(メサゾン)は日本では未発売)

 粘膜投与のフェンタニルについては、別のREMSが課せられる。
 今回のREMS はFDAがこれまでに行ってきたリスクマネジメントのうちで最大のもので、年間2100万枚の処方箋に影響を与えることになる。FDAの新薬オフィス局長のJ.Jenkins氏は「製薬メーカー間だけでなく、利害関係者全体の協力が必要である」と述べ、国の機関、患者、消費者代表、疼痛治療麻薬常習治療団体、医療専門家など利害関係者とのミーティングを行う予定であり、今夏のはじめまでには公聴会を開く予定であるとしている。
 REMSに要求されるいくつかの項目のうち、「安全使用の保証」項目が要求されている。これは“処方者、調剤者、患者が必ずリスクに気付き適正に使用できるように”安全使用を保証する項目である。FDAが考える安全使用の保証項目には、薬剤提供者に必須のトレーニングを課すこと、薬局や開業医の資格制、医療を行う場所の限定、患者のモニタリング、患者登録、流通規制などがある。
 「安全使用の保証」項目を実行することで、ラベルの記載に釣合った重篤なリスクを回避できるような規制をしたい、しかし一方では適正に使用する患者に負担をかけないことや、現在の流通システムとの関係も考慮する必要がある、と当局は考えている。

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 FDAのREMS指示と時を同じくして、2009年2月米国疼痛学会と米国疼痛医学アカデミーは癌以外の慢性疼痛治療に対する「オピオイド」使用のガイドラインを作成した。ガイドライン作成者によれば、作成で問題になったのは、オピオイド使用の研究データが不足していることであったという。今回のFDAのREMSに対しては、ガイドライン作成者は麻薬性鎮痛薬についてオープンに議論しようとしている姿勢には喝采を送るものの、現状のままで安全性の保証プランを企業にまかせることに疑問を呈している(JAMA誌、2009年3月25日号、1213-15)。
 あるクラスの薬剤全体にたいして、企業が共通したリスク評価を行いその対策をどのように進めていけるのか、またFDAがどのようにイニシアチブを取っていくのか注目したい。  (ST)


註1 “オピオイド(opioid)”はアヘン様(opium-like)の意で、薬理学上の薬剤の分類名である。アヘンの主成分であるモルヒネやコデイン、またその誘導体や類似の作用薬が含まれるが、多くが麻薬である(“麻薬”は法律上の名称で、麻酔作用を持ち、常用すると習慣性となり中毒症状を起こす物質の総称。嗜好的乱用は大きな害があるので法律で規制)。中枢神経に作用し強力な鎮痛作用を有する。

註2 長時間作用型とは、同じ薬でも、薬が徐々に体内に放出され長時間血中濃度を維持できるように工夫された製剤で“徐放性製剤”と呼ばれる。

註3 米国CDC(疾病管理予防センター)の報告では1999-2004年の間に、麻薬性鎮痛薬による故意によらない中毒死は1.68倍になっている。ウエストバ−ジニア州の調査では、薬の過量服用で死亡した人の93.2%がオピオイドの服用者だった(JAMA誌、2009年3月25日号、1213-15)。

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