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医薬品の迅速承認は危険!

2009-02-09

[キーワード: 迅速承認 市場回収 Vioxx事件 ユーザーフィー法] 
 
 現在、わが国では、薬害肝炎検証再発防止委員会による、薬害の再発防止をめざした医薬品安全システムの見直しが進められているが、その一方で、厚生労働省はドラッグ・ラグの解消を重要な政策課題としており、「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」(迅速検討会)による報告書(2007年7月)のもとに、治験の早期開始、治験実施期間の短縮、承認審査の迅速な実施、国際共同治験推進のための施策などを進めている。 

 すでに1992年に法制化されたユーザーフィー法のもとで承認の迅速化が加速した米国では、COX-2阻害薬Vioxx(米国メルク社)が心血管リスクのために販売中止に至った(2004年9月)事件等を契機に、市販後の医薬品の安全性問題が表面化し、FDA改革を余儀なくされた経緯がある。

 今回、プレスクリール・インターナショナル誌2008年12月号では、米国での迅速承認と安全性の関係を調査した研究(NEJM誌)を紹介し、薬の迅速承認のもとでは患者が一層有害性のリスクにさらされることに警鐘をならしている。
 わが国でも、市販後の医薬品安全システムを強化する一方で、迅速承認がなおも追求されるならば、プレスクリール誌での警鐘はそのままわが国の問題でもある。ここで紹介されている研究結果は、市販後の安全システムの強化とともに、承認審査の厳密化が伴わなければ再発防止は達せられないことを教えている。
 以下に、プレスクリール・インターナショナル誌の2008年12月の論説を紹介する。
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 近年、製薬企業の圧力のもとで医薬品承認の迅速化がはかられている。米国では、審査費用を製薬企業が出すユーザーフィー法(1992年制定)のもとで、FDAは、製品の90%については10ヶ月以内、優先審査医薬品では6ヶ月以内に承認するよう要求されている。
 Carpenter Dらの研究チームは、1992年〜2005年までに承認された313品目について、新薬が承認されるまでの期間と市販後に発せられた安全性情報との関連性を調査した。
 法定期間後に承認された医薬品に比較し、2ヶ月早く承認された医薬品は、市場からの回収が6倍多く、安全性警告の発令が4倍多かった。また、安全性を改善するよう市場から1回以上撤収させられたものは3倍多かった。これらの結果は、医薬品の承認は厳密な検討が必要であり、承認が早すぎると患者がより有害なリスクにさらされることを裏付けている。
 この研究結果は、FDAと公的資金の欠如への鋭い指摘につながり、製薬企業によって引き起こされた医薬品政策の損失を一層認識させることになった。Vioxx事件やその他のスキャンダルがさらに熱い議論を刺激し、国民を医薬品の危険から守ることを軽視したFDAはその炎のもとに置かれた。
 欧州委員会は、2001年の政策的失敗や多くのスキャンダルにもかかわらず、医薬品の承認をゆるめ迅速化することをなお追求しており、製薬企業が医薬品監視を制御することを望んでいる。
 当局が国民を迅速承認の危険から守る能力がないならば、社会と市民は彼らの責任の欠如に気付かなければならない。   (N.M)


文献 1)Prescrire International December 2008 Vol.17,No.98,p222

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