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米国医科大学の名前が売却されている−倫理性と現実のジレンマ

2009-02-09

[キーワード: 医科大学、名称変更、企業の寄付]

 米国の大学医学部/医科大学が、営利企業からの寄付を受け取る代わりに、企業名を冠した学校名に変えているという問題が、JAMA2008年10月22/29日号にコメンタリー(論評)として掲載されている。当会議は、医師・大学研究者・学会などの利益相反に関連した問題にも取り組んできた。ここにご紹介する論説では、名称変更という一見表層的な問題だけを取り上げているようにもみえるが、その背景には、実は本質的な利益相反の問題が潜んでいることを示唆しているといえるのではないだろうか。以下、記事の要約である。
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 米国の医科大学の中には、イェシーバー大学傘下のアルバート・アインシュタイン医科大学のように、著名な科学者や政治家の個人名が付けられているところがある。126校のうち19校は、このような名前である。
 最近、医科大学の中で、多額の寄付などを受けるとともに、その名称を寄付者あるいは寄付組織の名前を冠したものに変更しているところが出てきている。このような名称変更を行った医科大学はすでに15校あり、そのうちの8校が私立大学、7校は公立大学である。近年の例としては、ブラウン大学医学部の場合があげられる。ブラウン大学医学部は2007年、ワレン・アルパート財団からの1億ドル (約100億円)の寄付を受け、ワレン・アルパート医科大学に名称変更した。
 このように、医科大学がある個人や組織の名前を冠する場合、将来におけるリスクを伴うこともある。名前のもととなった個人や組織について、倫理的・法的問題が後から明らかになる場合もあるからである。このような例は、大学医学部のみならず、病院の場合でも知られている。たとえば、オハイオ州の公立病院であるコロンバス小児病院は、保険会社のネイションワイドから10年以上にわたり5000万ドル(約50億円)の寄付を受け、その結果ネイションワイド小児病院に名前を変えた。このとき新設された救急センターには、服飾メーカーの「アバクロンビー&フィッチ」の名前を付けることも提案されたが、小児アドボカシー(擁護)団体が、70人の小児科医および研究者の署名とともに抗議の書面を病院に提出し、阻止したという経緯がある。その書面には「(アバクロンビー&フィッチには)過度な性的表現ともとれる広告や商品があり、子どもをターゲットとしたものにも見受けられる。公共の医療機関が、そのような企業の宣伝をすべきではない」と記されていた。
 税金で支えられている公立の医科大学や医療機関は、納税者のために存在すべきものであり、企業や個人のものではない。寄付金と引き換えに、寄付者の名前を冠することが、大学や病院の方針や理念に抵触しないかなど、十分検討されるべきである。
 多額の寄付は財源不足の医科大学や医療機関にとっては恩恵かもしれないが、医学教育や医療サービスが売却されるようなことがあってはならない。   (Y)

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