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迅速承認後のマーケッティング戦略のもとで多くの患者の安全が危機に

2009-02-09

(キーワード: 迅速承認、マーケッティング戦略、患者の安全、モニタリングシステム)

 新薬の患者への供給を早めるためにとして、迅速承認が図られるとともに、承認後の製薬企業による大掛かりなマーケッティング(販売促進)戦略も容認されている。そうしたもとで、患者の安全性が危機にさらされるのでないかと、米国コロラド保健科学センター大学のカオ医師が警告し、副作用報告システムの改善と医療従事者、規制官庁、製薬企業、患者のすべてが関与するモニタリング(監視)システムの充実を呼び掛けている。 
 BMJ誌オンライン2008年12月2日記事の要旨を紹介する。

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 米国では、医薬品承認が審査人員の不足と予算の不足のため遅延しているとして、その迅速化のために、1992年ユーザーフィー(審査費用の製薬企業負担)法が議会を通過した。企業負担の見返りに、FDAは、優先審査の新薬の90%を6か月以内に、また標準的な新薬の90%を12か月以内に審査する目標を設定した。その結果、平均審査期間は1979-1986年の33.6か月から1997-2002年の16.1か月に短縮した。そして今や医薬品監視予算の43%は製薬企業が支出している。同様に、EUでは企業が75%を、英国では企業が100%を負担している。最近の研究は、審査期間の短縮が予期しない安全性問題につながることを示している。

 販売承認後に製薬企業が新薬を市場導入するスピードも非常に速くなっている。メルク社の血糖降下剤シタグリプチン(日本未承認)の例でみると、承認後48時間以内にMR(医薬情報提供者)教育が行われ、最初の医師訪問が開始される。製品のウエブサイトが承認後90時間以内に立ちあげられ、8日以内にターゲットとする医師の70%に製品の宣伝を済ませる。そして14日以内に1憶8800万人の患者(医療保険が契約されている人口の73%に相当)を擁するマネージド・ケア(効率的な管理された医療の提供を掲げる米国の民間医療保険システム)との打ち合わせを完了する。承認1か月後には、シタグリプチンは家庭医が2型糖尿病に処方する薬剤の20%を占めていた。メルク社はシタグリプチンが2007年末までに300万の処方せんで用いられたと推定している。そしてシタグリプチンは、発売2年目にして年間10億ドル(約900億円)を売り上げている。

 このように非常に多数の患者が短期間に新薬を服用することは危険性が大きい。これはバイオックスの例が示している。これらの新薬の服用者に対するリスクを最小限にするためには、モニタリング(監視)システムの改善が決定的に重要である。リスクを最小にし、薬剤から受ける利益を最大にするには、医療提供者、規制官庁、患者を含むすべての関係者が力を合わせる、市販後医薬品安全性監視への多面的な取り組みが最も効果的と考える。
           
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 この論説の著者は、医薬品の審査期間の短縮やすさまじい販売促進活動の現実を描きつつ、そうした状態のなかで患者へのリスクを最小限にする市販後監視システムを模索している。
 市販後監視システムの改善の重要性は言うまでもないが、患者の安全のためには、やはり承認前審査をきちんとし、またあまりに多数の患者が一度に危険にさらされるような過度の販売活動を規制することが必要ではないだろうか。 (T)

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