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臨床試験のビジネス化(CROブーム)がもたらすものは

2008-02-12

(キーワード: 医薬品開発業務受託機関CRO、臨床試験のビジネス化、外注)

 CRO(Contract Reserch Organisation)は、「医薬品開発業務受託機関」や「臨床試験受託機関」などと訳されているが、製薬会社に代わって臨床試験、開発業務、市販後調査などを専門的に行う組織(会社)である。これらの業務は当初は製薬会社が行っていたが、規制緩和のもとで外注が可能となった。日本でも薬事法改正により、1997年4月からCRO業務が法的に認知された。2006年における業界団体「日本CRO協会」会員38社の総売上高は約830億円、従業員数は約7500人に達している(薬事ハンドブック2007)。
 ニューイングランド医学雑誌(NEJM)誌2007年10月4日号が、「ビジネス化された臨床試験 ―CROブームの功罪」の記事を掲載している。以下はその要旨である。
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この10年間ほどの間に、医薬品開発のなかでこれまでアカデミア(大学・研究所など)が果たしてきた伝統的な役割のほとんどが、次第にCRO(医薬品開発業務受託機関)に取って代わられているが、このことはあまり注意を引いていない。
 CROは、アカデミアが行うよりも手早く効率的に臨床試験を進めてきた。しかし、彼らの資格、倫理、責任や顧客である製薬企業からの独立性などについて、疑問が呈されてきている。
 米国CRO産業の年間売上高は、2001年の70億ドル(約8400億円)から現在の推定178億ドル(約2兆1000億円)に増加した。CRO数は1000社を超えており、クインタイルズ、コバンス、PPD、チャールス・リバー・ラボの4社が10億ドル企業(1000億円企業)に成長した。2004年に上位CRO10社が扱った被験者数はのべ64万人にも上っている。1993年には1-3相の臨床試験のうちCROが行ったのは28%であったが、2003年には64%を占めている。
 しかし、最近のいくつかの事件は、臨床試験のビジネス化がもたらす問題について市民に注意喚起した。2006年英国で抗体医薬(その候補品)をヒトではじめて投与された全員が重症の多臓器不全に陥ったが(引用者注、TGN1412事件、※1)、この試験はCROパレキセルの管理下で行われた。訓練されていない医師が行い、何かあった場合に備えての24時間救急処置体制もとられていなかった。CROの大手PPDが行った抗生剤ケテックの安全性試験では、データの捏造が行われ、依頼主のアベンティス社(現サノフィ・アベンティス社)はその事実を知りながらそのデータをFDA(食品医薬品庁)に販売承認申請資料として提出、議会で問題になった(引用者注、※2)などである。
 そうした中でも製薬企業は規制緩和のなかで臨床試験などの外注を押し進め、開発コスト削減、自社での人員整理につなげた。試験委託されたCRO内部では早くデータを出すことが至上命令になり、試験デザインなどで問題の存在に気づいてもそれにこだわっていれば製薬企業は他のCROに仕事をまわし、仕事を失うことにつながった。結果を発表する権利も依頼主の製薬企業に奪われている。
 CROの質の向上のためには、CRO研究者や研究サイトについて一定の資格証明書を求めるなどが効果的なことがわかっていても、そうした規制がされないなかで、誰もしようとしない。それどころか、CROは価格競争のもとで、試験サイトをコストの高い北米からコストの安い東ヨーロッパ、ロシア、インド、アジアなどに移して行うようになってきているので、政府による現場の査察も行われ難い状況になっているのである。
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 ニューイングランド医学雑誌の前編集長のマーシャ・エンゼル氏も、「ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実」(邦訳2005年、篠原出版新社刊)で、それまで製薬会社の臨床試験を行っていたアカデミア(大学・研究所など)が、規制緩和でCROと張り合わされる中で製薬会社に対する発言力を急速に失い、臨床試験がスポンサーである製薬企業の言いなりになっていくさまを描き、警鐘を鳴らしている。  (T)