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「FDA再生法2007」成立で医薬品安全性監視はどのように強化されたか?

2008-01-21

(キーワード: FDA再生法、ユーザーフィー改訂、医薬品安全性監視、FDAの権限強化)

 「FDA再生法2007(FDA Revitalization Act 2007)」は2007年9月19日に、下院を賛成405、反対7で通過、翌20日には採決なしの全会一致で上院を通過し、ブッシュ大統領が署名して成立した。はじめに、この法律に至るまでの米国の状況を述べる。

 米国で初めての消費者保護を目的とした官庁として創設されたFDA(食品医薬品庁)は2006年に創立100周年を迎えたが、続発する大規模な薬害がFDAを揺るがせている。抗炎症剤(COX-2阻害剤)の1種であるバイオックス(ロフェコキシブ)による心臓発作、脳卒中など心血管リスクの増大、パキシル(パロキセチン)などの抗うつ剤による自殺リスクの増大、経口糖尿病治療剤アバンディア(ロシグリタゾン)による心筋梗塞など心血管リスクの増大など、未曾有の規模で被害者が生み出された。「FDAは国民の安全を守るという役割を果たしえているか」が問われていた(※1)。
 他方、「FDAがその活動を進める費用を誰が出すか」が問題となっていた。上にあげた薬害多発との因果関係も指摘されているのだが、1992年ユーザーフィー法(PDUFA)が成立し、新薬承認の迅速化と引き換えに新薬承認審査費用を製薬企業が負担するようになった。FDAの総費用のなかで製薬企業の支出が占める割合が増えるに従い、FDAが国民よりも製薬企業の方を向いて仕事をしているとの批判も高まった。
 ユーザーフィー法は、5年ごとに改定(Reauthorization)される決まりとなっている。
これを審議する議会は、2002年からはユーザーフィーの一部を新薬承認審査のみならず、安全性監視の目的で限られた用途にも用いうるようにしてきた。

 このような状況のもとでFDAが医薬品安全性確保の役割を果たせるよう、その改革が求められ、政府機関のひとつである米国科学アカデミー医学研究所(IoM)が多くの点について改善点を指摘し、議会にFDAの改革・権限強化を求めた(※2)。
 ユーザーフィー法の5年目の再改定期限である2007年9月末をめざして、米国社会で活発な論議や折衝がなされた。そしてIoMの要請に応えて議会が立法化したのが「FDA再生法2007」である。全部で500ページにわたる膨大な法律(※3)で、別名を「FDA医薬品安全性&ユーザーフィー法」、「FDA改善法(FDA Amendment Act, FDAAA)」などとも呼ばれている。
 「FDA再生法2007」が成立したことで何が変わったのか。これについてJAMA誌2007年11月14日号が「議会は米国科学アカデミー医学研究所(IoM)の医薬品安全性レポートに完全に応答」の題名で新法の概略をレポートしている。以下にその要旨を紹介する。
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米国の医薬品安全性システムは、大きな薬害(major drug safety scandals)の後を追って、断続的に整備されてきた。ロフェコキシブ(バイオックス)の市場撤去と他の医薬品安全性問題は、米国の市販後安全性監視システムがもつ限界に再度焦点を当てた。
 米国科学アカデミー医学研究所(IoM)がFDAの要請を受けて綿密な評価を行い、広範囲にわたるFDAの改革を提言した。FDAはその一部についてはすでに実行したが、FDAの運営資金と権限に関する事項については、議会の決定が必要であった。
 議会は、IoMの推奨を青写真に用い、「FDA再生法2007」は、医薬品安全性のための新たな財源、新たな権限と執行手段、能動的な市販後監視システム、臨床試験登録の拡張、試験結果の情報公開のための新たな要求、透明性と患者・医師とのコミュニケーションの改善を定めた。

1.新たな権限と執行手段
FDA再生法は、重大なリスクを確認・評価するのに必要な市販後調査を企業に求める権限をFDAに与えた。新たな安全性情報に応答して、FDAは添付文書記載の変更と新たな市販後調査を迅速に始めさせることができる。医薬品のもたらす利益がリスクを上回ることを保証するために、FDAは「リスクの評価と軽減策(REMS)」を実施し、流通と使用を制限できる。市販後調査の完遂、添付文書記載の変更、REMSの完遂を行わない企業には重い罰金が科せられる。

2.データへのアクセスと能動的な監視
 FDA再生法は、連邦・民間の電子記録医学データへアクセスできる能動的な市販後リスク確認システムの確立をFDAに要求した。システムは、2010年7月1日までに2500万人、2012年7月1日までに1億人の患者の電子データを含むものとなる。議会は2008-2012年に毎年2500万ドル(約30億円)の予算を組んだ。

3.臨床試験登録と結果の公表、利益相反
 1997年のユーザーフィー法は、重篤で生命を脅かす疾患のみに臨床試験登録を求めていた。FDA再生法は、第2相、第3相、第4相臨床試験のすべてについて患者受け入れ開始21日以内に登録するよう求めている。そしてその結果の公表のためのデータベースを3年以内に設け、項目を定め報告を求めている。臨床試験結果は、試験終了後1年以内ないし販売承認後30日以内に報告せねばならない。違反には重い罰金が科せられる。また、FDA諮問委員会委員の利益相反ルールで、委員の例外を認める比率を毎年5%ずつ減らすようFDAに求めている。

4.リスク・コミュニケーション
 FDA再生法は、新たにリスク・コミュニケーション諮問委員会を設置し、医薬品安全性情報の徹底を図るよう求めている。販売承認後48時間以内に公表される新規化合物の新薬承認情報サマリー(概略)において、審査の課程で問題となった安全性問題とその結果について明らかにするよう求めている。新薬承認情報パッケージ(書類一式)は承認後30日以内に公表される。

5.他の条項
 FDA再生法は、行政が行う規制の科学性を監視し、厳しい安全性確保手段を開発する主席科学者の新たなオフィスを創設する。医薬品の科学的なレビューは担当官の仕事であり、管理者がその内容を変えてはならない。FDAの科学者が外部の雑誌などに発表をする学術的な論文に対しては、管理者は時期を失することなくレビューしなければならない。市販後調査の年間報告書も遅れることなく提出しなければならない。

6.財源
 IoMは通常予算からの支出を増やすよう強く意見表明したが、議会はユーザーフィーによる財源を維持し、医薬品安全性に対するユーザーフィー支出を2008年2500万ドル(約30億円)から2012年6500万ドル(約78億円)へと増額した。

 このFDA再生法によって、医薬品ライフスタイルの全期間の安全性を監視する権限を、FDAははじめて得た。患者・市民の健康を守り促進するという使命を遂行する財源と権限をFDAに与えたFDA再生法は、1962年のFDC(食品・医薬品・化粧品)法改訂以来、最も広範な改訂をFDC法にもたらすであろう。
                              

 新法が成立するまでの過程では、安全性監視強化のためにFDAの権限強化を求める議会に対し、FDA長官が「欲しいのは権限でなくてカネ」と発言するなど、何かと論議を呼んだ改定だった。スクリップ誌2007年9月26日号は、ユーザーフィー法の期限がきれることを理由にFDAが、法律を9月21日までに通しカネを用意しないと(ユーザーフィーで人件費を賄ってきた)2000人の首切りをすると脅かすなかで、議員は銃を突きつけられて妥協して法を通したとも表現している。
米国科学アカデミー医学研究所(IoM)は、「FDAの使命は国民の健康を守り前進させることにあり、FDAはそうした職務を行うのに必要な人的・金銭的資源を他に請わねばならない状況にあってはならない。また、CDER(医薬品審査調査センター)に必要な費用をユーザーフィー法により製薬企業に過度に依存することは、FDAの信頼性を損ねるとともに任務の効果的な遂行に影響を与える。議会はFDAの資金・人材の増加を承認する必要がある」と指摘していた。スクリップ誌2008年1月2日号によれば、年末の予算審議で議会はFDAに対する歳出(予算割り当て)の9%増額を決定するのだが、FDA再生法で大枠のユーザーフィー依存の体制は継続されたままである。従ってJAMA誌のタイトル「完全に応答」は言い過ぎであろう。
 なお、JAMA誌のこのレポートでは触れていないが、FDA再生法は、バイオックス薬害を契機に問題となっていた新薬のDTCA(テレビなどを通じての処方せん薬の患者・市民への直接広告)規制について、販売後一定期間のDTC禁止は見送ったが、FDAがDTCAの内容などを事前にチェックする権限を与えた。またその財源のためのユーザーフィー供出を広告企業に課している(FDCレポート・ピンクシート誌2007年10月1日号)。  (T)