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米国の診療ガイドラインはしばしば製薬会社の影響をうけている

2007-04-20

[キ−ワ−ド: 診療ガイドライン、製薬会社、利益相反、AHRQ、 NICE]

 診療ガイドラインの作成は、日本では主に各分野の学会が主導しているが厚生労働省が主導する場合もある。米国もほぼ同様であるがNIH (National Institutes of Health : 国立衛生研究所)が主導の場合には公開のカンファレンスが開かれる点は日本と大きな違いであろう。しかし、米国でも製薬企業の影響による質の低下が大きな問題になっている。ニューイングランド医学雑誌(2007年1月25日号)の論説「ガイドラインに対する指針」では、米国の診療ガイドライン作成の現状と問題点を指摘し、ガイドライン作成のためには公的な経済支援のシステムとガイドラインの質を保証する方法論の支援を行うことが重要であると述べている。以下に抜粋した。

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  現在米国には2000を超えるガイドラインがある。大部分は医学分野の学会がスポンサーになっているがその質にはかなりのばらつきがあるため、多くは論争が繰り返されてきた。

 1995年にAHCPR(Agency for Healthcare Policy and Research: 保健政策研究部門)がスポンサーとなって作成されたせき髄治療のガイドラインは、大きな政治論争へと発展した。結果としてガイドライン作成を担当していたAHCPRの予算は削減された上に、ガイドライン作成プログラムには終止符が打たることになる。この部門は再編成されAHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality:保健向上研究部門、※1)と名称も改められた。現在、AHRQはガイドライン作成は行わず、年に20-25項目のシステマティックレビューを行っている。米国では重要な医療項目のエビデンスの評価について、NIH Consensus Development Program (NIH合意形成プログラム、※2) が支援するシステムをとっている。AHRQのシステマティックレビューもここに提供される。NIH合意形成プログラムの特色は公開カンファレンスで研究発表がおこなわれることであるが、このやり方で現在、評価がなされるまでに1年半もかかっており、年3-4回のカンファレンスの開催で50万ドルもかかっている。

 最近のガイドラインについて、AHCPR(保健政策研究部門)時代にできたガイドラインと比較した研究報告では、方法論上の質が落ちている上にガイドラインとしての重要なポイントが抜け落ちていると酷評している。ガイドラインによっては、独断で書かれていたり、保険会社が支払いを免れる事ができるような条件が付け加えてあると批判を受けているものもある。ガイドラインの内容と企業の利益が関係するような製薬会社が、当のガイドライン作成にかなりの資金を提供した時には問題が起きている。さらに、ガイドライン委員会のメンバーが製薬会社と経済的なつながりがあるとなれば、問題がおきるのは避けられない。にもかかわらず、ガイドライン作成委員と企業のつながりは広範にわたっているのが現状である。実際、治療に関するガイドラインを担当した著者685人を調べたところ、35%の人が企業と経済的なつながりがあると記述していた。

 必要な経済的な支援とガイドラインの質を保証する方法論の支援とがあってはじめて医療者にも患者にとってもベストなものが作成されるであろう。信頼性の高いものにするのは、企業や自己利益のある組織からの資金提供を受けずに作らなくてはならない。 この為の提案として、以下の3つが考えられる。一つは、NIH合意形成プログラムを拡充してもっと多数の項目を引き受けさせる、二つ目は、AHRQが以前のようにガイドライン作成に関れるように議会を通して要請する、三つ目は、英国のNICE(National Institute for Health and Clinical Excellence:英国医療技術評価機構、※3、※4、※5)のようなシステムを作ることであろう。
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 上記の記事に関連して英国医学雑誌(2007年1月27日号)は、NIHが開催を予定していたカンファレンスを中止したことを掲載している。新生児のために妊婦のヘルペス検査を行う方向で開催されることになっていたカンファレンスであるが、新生児にヘルペスはまれである上、発表者の5人のうち4人が抗ウイルス薬メーカーと関係があることに対して米国公益科学センターが抗議文を送ったことによるものである。 (S)