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米国立科学アカデミー医学研究所(IoM)が医薬品の安全性確保のために議会にFDAの改革を求めるレポート

2006-12-13

(キーワード:米国立科学アカデミー医学研究所(IoM)、医薬品の安全性確保、
 FDAの改革)

 米国FDA(食品医薬品局)は、米国で初めての消費者保護を目的とした官庁として創設され、2006年6月創立100周年を迎えた。しかし、COX-2阻害剤と呼ばれる抗炎症剤の1種ロフェコキシブ(バイオックス)による未曾有の大規模な薬害、SSRIなどの抗うつ剤による自殺リスク増大などがFDAを揺るがし、FDAは危険な医薬品などから国民を守れていないとの批判が高まっている(※1)。議会でもFDAの改革を求める法案が超党派の議員から提出され、FDAと米国保健福祉省(DHHS)は、IoM(米国立科学アカデミー医学研究所)に、医薬品安全システムを評価し、リスクアセスメント(評価)、安全性監視、医薬品の安全な使用を改善する提言を依頼していた。IoMはこのほど、「これからの医薬品安全性: 国民の健康を推進し守るために」と題した244ページにわたるレポートをまとめ、米国議会にFDAの改革を提言した(※2)。その内容は、同じく国民の健康を守り前進させる使命をもつ、日本の厚生労働省のあり方にも多くの示唆を与えている。以下はIoMの主な提言である。

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<組織文化>
1. 安定した業務遂行のために、FDA長官の任期を6年間とすること[4年ごとに変わる大統領政治からの独立性を強める]
2. DHHSはFDA長官にアドバイスする外部の管理諮問委員会を設置し、スタッフのモラール(志気)を改善し、優秀なプロフェッショナル・スタッフが定着するようにし、透明性を強め、信頼性を回復すること
3. CDER(医薬品評価研究センター)は、新薬審査チームごとにOSE(医薬品監視・薬剤疫学オフィス)スタッフメンバーを指名し、安全性に関する市販後規制業務をOND(新薬オフィス)とOSEが共同して行うようにすること
4. 革新的な医薬品の迅速承認と安全性の確保というFDAの2つの目標の適切なバランスを回復する必要がある。過度に承認のスピードをあげ安全性をなおざりにすることに傾きやすいユーザーフィー法(審査費用を製薬企業が負担することを定めた法律)については、具体的な安全に関連した遂行目標を2007年改定の際に導入すること

<科学と専門家>
1. FDAの副作用報告システムは時代遅れとなっており効率がよくない。副作用のシグナルを早く把握し、対策をとれるようすること
2. 各団体との共同の取り組みを強め、議会はこのパートナーシップの資金的な手当てをすること
3. CDERは、市販後の安全性評価を改善するために内部の薬剤疫学的、情報処理学的能力を強化すること 
4. 承認前および承認直後のリスク管理の充実のために、新薬はすべて
諮問委員会にかけること[これまでは一部しか諮問委員会にかけていない]
5. 審議への影響を避けるため、大多数の諮問委員会メンバーが製薬企業と金銭的関係をもたないよう、利益相反を管理するための基準を確立すること
6. 製薬企業に、第2相-第4相臨床試験の登録を徹底させること

<規制>
1. FDAには、安全性確保に必要なことを製薬企業に確実に行わせる権限が欠けている。議会はFDAが医薬品を監視し安全な使用を確かなものとするリスク評価とリスク管理を新薬承認の前後に行う能力を発揮できるようすること
2. リスク評価とリスク管理は次の内容を含むこと
(1) FDAにラベリング(添付文書記載内容)を変えさせる権限を強めること
(2) FDAに放送でのDTC広告(患者・市民に対する直接広告)を含む医薬品の販売促進に対する警告権限を強めること。DTC広告を販売後一定期間行わせない権限をもつこと
(3) FDAが製薬企業に臨床試験の追加や他の必要な研究を行わせる権限をもつこと
(4) FDAが有効な医薬品副作用監視システムを維持できる権限をもつこと
3. FDAに、製薬企業に過料、禁止命令、販売承認の取り消しを課す権限を強めること
4. 英国でされているように基本的に発売後2年以内の新薬に逆三角などのしるしをつけ、DTC広告もこの期間は制限すること
5. 新薬承認後5年より遅くならない時期に新たなデータのレビュー(考察と注意深い判断・検討)を行うこと

<コミュニケーション>
1. 議会は、患者と消費者とのコミュニケーションに関する新たなFDA諮問委員会設立の法制化をはかること。委員会には患者と消費者を代表するメンバーも参加できるようすること
  
<人的・金銭的資源>
1. FDAの使命は国民の健康を守り前進させることにあり、FDAはそうした職務を行うのに必要な人的・金銭的資源を他に請わねばならない状況にあってはならない。また、CDER(医薬品審査調査センター)に必要な費用をユーザーフィー法により製薬企業に過度に依存することは、FDAの信頼性を損ねるとともに任務の効果的な遂行に影響を与える。医薬品ライフサイクルの安全性・有効性改善を支えるために、議会はFDAの資金・人材の増加を承認すること
                               (T)