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利益相反の明確化に米国消費者団体公益科学センター(CSPI)が一貫した努力

2006-08-30

(キーワード: 利益相反の明確化、米国の科学者、公益科学センターCSPI、データベー ス公開)

 科学者・医学者と企業との金銭的なつながりは、さまざまな歪みをもたらす可能性がある。利益相反と呼ばれる現代社会のキーワードのひとつである。市民の信頼が揺らぐのを防ぐために、まずなされねばならないことは、科学者・医学者が研究の中に持つ金銭的利害関係の開示である。日本では利益相反への取り組みが遅れているが、欧米では一流の科学雑誌、医学雑誌が論文の発表に際して、著者のその論文に関連する利益相反関係の明示を求めている。
 企業から独立した国際的な医薬情報誌「プレスクリール・インターナショナル」2006年8月号が、米国消費者団体公益科学センター(CSPI)による利益相反の明確化に向けての一貫した努力を記事にしているので、要旨を紹介する。

  2003年にロサンジェルス・タイムズ紙が国立衛生研究所(NIH)の何人かのスタッフの利益相反を明らかにしたスクープ記事を掲載した。これらのNIHのスタッフは1995年以来、企業から数百万ドルの金銭を受け取っていた。このスキャンダルを受けて、食品、健康、環境問題に取り組む米国の消費者団体公益科学センター(CSPI)が、生物医学分野の論文で利益相反が正しく開示されていない頻度を調査した。

  CSPIは、4つの医学・科学雑誌(ニューイングランド医学雑誌、JAMA、環境衛生展望、毒性・応用薬理学)に掲載された論文の筆頭および最後に記載されている著者の利益相反関係を調べた。2003年12月から2004年2月の3か月間に掲載された176論文のうち、163論文が利益相反関係はないとしていた。しかし、CSPIの調査では13論文(8%)が明らかな利益相反を有しており、利益相反の基準を少し広げるとさらに11論文(7%)が利益相反を有していた。殆どが金銭的関係で、企業による研究成果に対する直接的な支払い、特許に対する支払いなどであった。CSPIは氏名と利益相反の内容を公表した。

  2001年以来、CSPIは米国の科学者、学会、大学などの医療・食品分野の企業との金銭的な関係を示すデータベースをウェブサイトに公表している(※1)。
2005年9月CSPIは、世界的な注目のなかでインスリン吸入剤について審議するFDA内分泌代謝医薬品諮問委員会の9人の委員のうち3人が同剤の製造販売企業のファイザー社と金銭的関係があり、しばしば諮問委員会の座長を務めた科学者が同社から5000-10000ドルの支払いを受けていることを明らかにした(※2)。2006年1月、ネーチャー誌とサイエンス誌に、韓国の科学者ファン・ウースクがいくつかの特許に関連する偽造したデータを投稿し掲載された件で、CSPIは両誌に金銭的な利益相反を明示しない科学者の論文は掲載を拒否するよう申し入れた(※3)。

 当薬害オンブズパースン会議は、多くの被害をもたらした肺がん治療剤イレッサについて使用継続のガイドラインを作成した日本肺癌学会の科学者のアストラゼネカ社との金銭的利益相反関係を明らかにするよう同学会に申し入れた。しかし、同学会は「学会として作成したものなので必要ない」と拒否した。当会議ではこの回答を受け、同学会自身のアストラゼネカ社との金銭的利益相反関係を明らかにするよう申し入れている(※4)。 (T)