調査・検討対象

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SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤))

1 SSRIとは

選択的セロトニン再取り込み阻害剤 (Selective Serotonin Reuptake Inhibitor) の頭文字を取った略称で、抗うつ作用、抗不安障害作用を有するとされている医薬品である。日本では、うつ病・うつ状態に加え、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害等の不安障害領域への適応拡大が行われている。従来の三環系や四環系の抗うつ薬と異なり、セロトニン系に選択的に作用するかのようにメーカーや一部専門医・マスコミ等を通じて宣伝され、「副作用が少なく一般臨床医でも使える新しいタイプの薬」とのイメージが医療現場で形成され、精神科専門医以外の一般臨床医による処方が急拡大している。
1988年にイーライ・リリー社が米国で承認を受けたプロザック(一般名:フルオキセチン、日本未発売)が代表的商品だが、現在ではグラクソ・スミスクライン社のパキシル(一般名:塩酸パロキセチン水和物、英国での商品名はセロキサート)、ファイザー社のジェイゾロフト(一般名:塩酸セルトラリン、英国での商品名はゾロフト)が広く各国で使用されている。
日本では、1999年5月から発売開始され、現在は①ルボックス(一般名:マレイン酸フルボキサミン、アステラス製薬株式会社)、②デプロメール(一般名:同左、明治製菓株式会社)、③パキシル(一般名:パロキセチン塩酸塩水和物、グラクソ・スミスクライン株式会社)、④ジェイゾロフト(一般名:塩酸セルトラリン、ファイザー株式会社)が発売されている。また、類似薬のSNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)であるトレドミン(一般名:塩酸ミルナシプラン、旭化成ファーマ株式会社、ヤンセンファーマ株式会社)も発売されている。
販売額(薬価ベース)はSNRIを合わせると、2003年度は540億円(パキシル:310億円)、2005年度は730億円(パキシル:450億円)、2007年度には900億円(パキシル:590億円)と急増しており、使用が減少している欧米とは顕著な違いをみせている。

2 とりあげた経緯

SSRI、とりわけパキシルについては、米国・英国での離脱反応、自殺企図、虚偽宣伝などをめぐる訴訟が起こされているほか、英国でのBBC放送ニュース特集番組パノラマやチャールズ・メダワー(市民団体ソーシャル・オーディット代表)、アンドリュー・ヘルクスマイヤー(医師)、デービット・ヒーリー(精神科医)などによるSSRI被害の掘り起こしと行政への精力的な働きかけがある。また、パキシルのティーンエイジャーへの有効性が無いことや、自殺企図などの重篤な有害作用の存在を裏付けるデータをグラクソ(GSK)社が隠していたとして米国ニューヨーク州当局が提訴するなど、SSRIの有害作用や使われ方の問題は、欧米では大きな社会問題となっている。
しかし、日本ではこれらの事実はほとんど知られておらず、SSRIは有害作用が少なく、一般医でも使いやすい抗うつ剤として処方が増加し、リストラなど生活不安、閉塞感のある社会状況とも関連して、大きく売り上げを伸ばしている。
この欧米と日本の状況のギャップの大きさにも注目し、日本における本剤をめぐる問題点を明らかにすべく取り上げることとした。

3 何が問題か

SSRIは従来の三環系や四環系の抗うつ薬と効果は同じだが、セロトニン系に選択的に作用するため安全性が高く使いやすい薬とのイメージが医療現場で形成されている。確かに抗コリン作用や抗ヒスタミン作用が弱いため忍容性が高く、過量服用の際の致死率が低く心毒性は少ない。しかし、SSRIには非常に注意される有害作用が存在する。欧米で問題となった自殺や自殺行為、攻撃性などの衝動性亢進、離脱(禁断)症候群と依存性の問題、投与患者の6割以上に発現する性機能障害、常用量範囲での胎児毒性(出生時の体重減少、けいれん発作誘発、離脱症候群誘発など)、従来型「抗うつ薬」では見られない骨折や骨密度減少、消化管出血「問題」など多岐にわたる有害作用がある。
政府の「自殺対策基本法」の施行(2006年10月)や「自殺総合対策大綱」の策定(2007年6月)など、国を挙げた自殺予防対策が本格化する中、うつ病を早期に発見し治療する取り組みが行われ、軽症のうつ病は一般医が治療するという流れが強まっている。その結果、一般医による軽症うつ病治療の第一選択として、安易にSSRIによる薬物療法が行われる可能性が高い。特にSSRIの有害作用である衝動性亢進と性機能障害はうつ病に随伴する症状との鑑別が困難であり、添付文書上の記載も不十分なため、有害事象をみすごし、使用が継続され被害が拡大するおそれがある。

4 基本的な行動方針

メディカリゼーション(医療化、薬漬け医療)と呼ばれる適切でない患者や薬物治療を必要としない市民への使用が目立つSSRIであるが、SSRIは離脱反応の問題もあって「一般臨床医が安心して使える医薬品」では決して無く、「非常にやっかいな医薬品」であり、販売が継続されるとしても専門医による限定した使用が求められる医薬品である。SSRIの有害作用が一般医にも正しく認識されるように啓発、問題提起を行っていく。

5 具体的行動とその結果

  1. (1) 2004年10月27日、グラクソ・スミスクライン(日本法人)、藤沢薬品工業(現アステラス)、明治製菓あて、「抗うつ剤SSRIのデータ等の公開を求める要望書」を送付、厚労省にはこれらの写しを送付した。これに対し、3社とソルベイ製薬から回答がよせられたが、満足できる回答ではなかった。
  2. (2) 2004年11月23日、当会議とTIP「正しい治療と薬の情報」誌の共催で、ソーシャルオーディットのチャールズ・メダワー代表を迎えて、東京・KDDIホールでセミナー「暴走するクスリ-今、抗うつ剤で何が起きているのか?」を開催した。広い会場は予想を超えた多くの聴衆で埋まり、この問題への関心の高さが伺えた。
  3. (3) 2008年5月12日、厚労省、法務省、日弁連、アステラス製薬、明治製菓、グラクソ・スミスクライン株式会社、ファイザー株式会社に対し、実態把握が困難な衝動性亢進と犯罪との関係や性機能障害についての調査実施、および添付文書の改訂を求める要望書を提出し、関連学会に対して写しを送付した。

この要望書を受けて、日弁連は、2009年4月から「抗うつ薬(SSRI、SNRI)の副作用に関連すると疑われる刑事・少年事件に関する調査」を開始した。 また、2009年5月には、パキシルの添付文書の改訂が行なわれ、「慎重投与」の項目に「衝動性が高い併存障害を有する患者」などが追加され、「重要な基本的注意」の項目も衝動性、攻撃性、他害行為等に関する注意が追加された。

6 今後の課題

今後もSSRIに関する情報収集と啓蒙活動、SSRIで顕著なメディカリゼーションについての問題提起などを行っていく。
衝動性亢進と犯罪との関係の問題については、弁護士会のアンケート結果を踏まえ、さらなる提言等を行なっていく。また、胎児毒性についても、情報収集の上、注意喚起等を行なっていくことを検討している。
さらに、最近になり、児童・青年を対象とした製造販売後臨床試験等についてもが行なわれることが判明したので、その中止、情報公開を求めていく。