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SSRIは、従来の三環系抗うつ剤よりも「害作用(有害副作用)が少ない使いやすい抗うつ
剤」として売り出された新しいタイプの抗うつ剤です。選択的セロトニン再取り込み阻
害剤というのが正式の名称で、日本ではパロキセチン(パキシル)とフルボキサミン(ル
ボックス、デプロメール)が製品となっています。
 SSRIが臨床試験で国際的に有効性が確認された本来の適応は、「大うつ病性障害
(MDD)」の診断基準に合致した重度のうつ病と「強迫性障害」「パニック障害」などの
重度の不安障害で、これらの病気を持つ人には大切な薬です。
 従って、当会議として問題にしているのは、その害作用が少なく
使いやすいというのが本当かという疑問とともに、SSRIを本来必要としない人に広範囲
に用いるメディカリゼーション(医療化、くすり漬け)といわれる現実です。
 SSRIには、その薬理作用に直接関係する「セロトニン症候群」の重篤な害作用をはじめ、
高頻度に発症する「性機能障害」や、「離脱反応」など、綿密な注意の必要な害作用があり
ます。加えて最近、極めて重篤な害作用として認識されてきたのが、18歳未満の患者
で明らかになった「自殺企図」です。この害作用はSSRIの適応であるうつ病や不安障害等
の病態の進展との区別が難しいことから、その認識が遅れましたが、プラセボを対照と
して用いるランダム化比較臨床試験成績からその存在が明確になったものです。また、
「自殺企図」とも関連する「凶暴化」の害作用も明らかになっています。
 SSRIのこのような重大な害作用は、欧米ではすでに社会問題となっています。
 2001年8月、米国ではカリフォルニアの患者35人が、パロキセチンの重篤な離脱反応
で英国系製薬大手のグラクソ・スミスクライン社を相手に集団訴訟を提訴しました。こ
の離脱反応は英国でも問題となり、グ社は2003年6月に添付文書での離脱反応が生じる
リスク予測を0.2%から一挙に25%に修正しました。
 2002年10月、英国の公共放送BBCテレビのニュース特集番組「パノラマ」がパロキセ
チンの害作用問題をとりあげましたが、6万本の電話と1500通のEメールの反響があり、
続編を制作、最近の2004年10月まで20回近くも放映を重ねています。これに関連して英
国国会でも医薬品害作用監視のあり方が問題となり、患者が害作用監視に参加する仕組
みが実現しました。
 2004年6月、米国のニューヨーク州当局が、パロキセチンが18歳未満で有効性がなく、
自殺企図の害作用のリスクが明らかになったデータを隠していたとしてグ社を提訴、グ
社は今後ホームページで全製品の臨床試験データを公開することを表明、8月に和解が
成立しました。この事件を契機にして、臨床試験の事前登録と結果開示を国際的に行う
動きに発展しています。また、FDA(食品医薬品局)の害作用監視体制を見直す動きとも
なっています。FDAは、2003年6月パロキセチンを18歳以下に使用しないよう勧告、2004
年10月には、全抗うつ剤の添付文書に18歳以下での自殺傾向のリスクについて、最も厳
しい「黒枠警告」を行うよう指示しています。
 厚労省は、欧米の動きを受けて、2003年8月パロキセチンを18歳以下の大うつ病性障害
には禁忌とするよう添付文書を改訂した以外は、何も行っていません。欧米と日本の
SSRIのリスクに対する医師や患者の認識には大きなギャップがある状況です。
 日本では抗うつ剤の適応が「うつ状態」まで拡大されているのが、「うつは心のかぜ」
との認識などとともに、安易な使用やメディカリゼーションにつながっています。
 当会議は、2004年10月メーカーに「自殺企図」に関連する成人のデータの全面公開を
要望するとともに、2004年11月にはSSRIセミナーを開催(巻頭言、セミナー報告参照)しました。今後も取り組みを強めていく所存です。

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