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HPVワクチンメーカーによるコード違反被疑事案に関する苦情申立て

2015-02-26

 2015年2月26日、日本製薬工業協会に対して「HPVワクチンメーカーによるコード違反被疑事案に関する苦情申立て」を提出しました。

◆申立の趣旨
 HPVワクチンの接種推進運動を行っている「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」に対し、HPVワクチンメーカーであるMSD株式会社及びグラクソ・スミスクライン株式会社が巨額の寄付を行っていたこと、並びにグラクソ・スミスクライン株式会社のワクチンマーケティング部長の職にあった元社員が、同会議から委託を受けてHPVワクチンの接種推進のための活動を行っていたことは、医療用医薬品プロモーションコードに違反すると思われますので、厳正な調査の上、「医療用医薬品プロモーションコード違反措置規定」に従って違反改善の措置をとることを求めます。

◆申立の理由(要旨)
1 「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」HPVワクチンメーカーとの関係
 子宮頸がん征圧をめざす専門家会議(専門家会議)は、2008年11月の設立以来、一貫してその活動目標にHPVワクチンのわが国における普及・接種推進を掲げ、その実現のために政府、国会、自治体、メディア、医療機関、啓発団体、市民といった幅広い層に対して、きわめて多彩な活動を行ってきました。その結果、わが国のHPVワクチンに関連する立法、行政、及び世論形成等に大きな影響を与えてきました。
 一方で、専門家会議が行ってきた、HPVワクチンの早期承認、公費負担の実現、接種率の向上、積極的勧奨の再開などの推進運動は、HPVワクチンの販売拡大に直結するものです。

 その専門家会議に対して、HPVワクチンの製造販売企業(MSD株式会社、グラクソ・スミスクライン株式会社、およびジャパンワクチン株式会社)から、2012年度に3500万円、2013年度に3850万円という巨額の寄付金(一般寄付金)が提供されており、専門家会議は、その設立当初から、その活動資金をHPVワクチンメーカーからの寄付金に依存してきたことが推測されます。

 また、専門家会議については、2009年4月までGSKのワクチンマーケティング部長であった元社員が、2011年1月より専門家会議から委託を受けてHPVワクチンの接種推進に関する活動に関与し、委託料の支払いを受けていたことも明らかとなっています。

2 医療用医薬品プロモーションコード違反
(1) 製薬協の定める「製薬協コード・オブ・プラクティス」の第2章「医療用医薬品プロモーションコード」には、専門家会議のような団体に対する資金や労務の提供について直接定めた規定はありませんが、同コードは会員会社に対し、具体的な記載がない場合であってもコードの趣旨に沿った判断をすることを求めており、かかる観点から検討すると、HPVワクチンメーカーによる専門家会議に対する巨額の寄付等は、以下に述べるとおり医療用医薬品プロモーションコードに違反するものと考えられます。

(2) 医療関係者に対する金銭類の提供
 「会員会社は、直接であれ間接であれ、医薬品の適正使用に影響を与えるおそれのある金銭類を医療関係者・医療機関等に提供しない」とした医療用医薬品プロモーションコード「9.金銭類の提供」に違反する。

(3) 労務提供
 医療用医薬品プロモーションコード「7.講演会等の実施」、「8.物品の提供」及び「9.金銭類の提供」の各条項からすれば、医療用医薬品プロモーションコードはおよそ医療関係者に対する医薬品の適正使用に影響を与えるおそれのある利益供与を禁ずる趣旨であり、GSK元ワクチンマーケティング部長による労務提供はその趣旨に反する。

(4) 偽装されたプロモーション
 専門家会議によるHPVワクチンの推進運動に対してHPVワクチンメーカーから資金提供や労務提供がなされているにもかかわらず、そのことが明確にされていなかったことは、製薬協が加盟する国際製薬団体連合会(IFPMA)の定める「IFPMAコード・オブ・プラクティス」の「2.2 プロモーションの透明性:医薬品およびその使用に関連する資材には、プロモーション活動を目的とするか否かに関わらず、企業により後援されている場合は、誰の後援によるものかを明確に記載しなければならない。プロモーションは偽装されてはならない。」とする規定に反する『偽装されたプロモーション』というべきであり、ひいては製薬協コードの趣旨に反する。

(5) プロモーションコードの潜脱
 専門家会議の活動には、HPVワクチンの有効性・必要性を強調し副反応の危険性についての十分な情報を欠く啓発冊子の作成・配布、参加者の渡航費等を負担して海外で開催された学会に派遣するツアーの実施など、MSDないしGSKが自ら行えば医療用医薬品プロモーションコードに違反することとなる活動が多数含まれており、HPVワクチンメーカーがこのような活動を資金的に支援することは、医療用医薬品プロモーションコードの潜脱行為として、同コードないしその趣旨に違反する。


※製薬協からの回答(2015.7.24追記)
 2015年6月29日、日本製薬工業協会からの回答を受領しました。回答の結論は、医療用医薬品プロモーションコードに違反しない、あるいは違反するとは判断できないというものでした。

 製薬協の説明によれば、調査に当たりヒヤリングや資料提出を求めたのは当事者であるGSK及びMSDのみとのことであり、子宮頸がん征圧をめざす専門家会議や堀内氏(元GSKワクチンマーケティング部長)に対しては調査の要請もされていません。いかに強制力がないとはいえ、事案解明にとってきわめて重要な調査対象に対して調査を試みさえしていない姿勢には、疑問を感じます。

 当会議は、本申立てにおいて、ワクチンメーカーからの巨額の寄附金を資金源として、専門家団体がワクチンの販売拡大に直結する接種推進運動(早期承認、公費助成、摂取率向上等)を大々的に行っているというHPVワクチンの現状について、それは「偽装されたプロモーション」なのではないかという観点から、強い疑問を提起しました。このような疑問は、ひとり当会議のみが持つものではなく、斎藤貴男著『子宮頸がんワクチン事件』(集英社インターナショナル)、鳥集徹著『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』(文藝春秋)などでも同様の疑問が呈され、これらの書籍においては、専門家会議内部の会議にワクチンメーカーの社員がオブザーバーとして参加していたなど、専門家会議とワクチンメーカーの密接な関係を窺わせる事実も指摘されています。
 
 しかし、回答には、このような疑問に答える踏み込んだ調査がなされた形跡はなく、もっぱら当事者(GSK及びMSD)からの説明に依拠して、形式的な根拠をもってコード違反を否定しています。

 民間の任意団体である製薬協に調査権限や調査能力の限界があることは否定できませんが、業界団体の自浄に向けた努力に期待していた当会議としては、本件がこのような不十分な調査に終わったことに対して、強い失望を感じざるを得ません。

 製薬協が社会の信頼に応えるためには、調査のあり方そのものを見直すことが必要であると考えます。